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日経ビジネスDigital速報

オバマ対ロムニー、究極の集金戦争

モバイルクレジット端末で、「草の根」資金を総ざらい

 4年前、大統領選挙で草の根の運動を盛り上げて、個人からの小額の資金をかき集めて勝利したバラク・オバマ大統領。

 それから4年が経ち、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)をはじめとした技術がさらに進み、利用者も急増している。その状況を利用して、今年の大統領選挙は「超ハイテク」の資金集めが展開されている。

 前回もオバマ氏は、インターネットやSNSといった新しい手法を次々と駆使して選挙戦を優位に展開したが、今回の選挙では、またもや最新の技術を駆使している。周囲を驚かせたのは、モバイル決済の新サービス「Square」を採用したことだ。共和党予備選を戦っているミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事も、同じくSquareを資金集めに活用すると公にしている。

500円玉ほどのカードリーダーを、スマートフォンかタブレット端末に差し込めば、カードリーダーになるSquare。インターフェイスも美しく、使い心地がいい。

 日本ではSquareは聞き慣れないサービスだろう。スマートフォンやタブレットを、クレジット決済端末に変えてしまうサービスだ。2010年5月から米国で始まったばかりで、ツイッター創業者の一人、ジャック・ドーシー氏が始めたベンチャーとして知られている。

 これまでクレジット決済というと、事業者がクレジット会社に加盟店申請をして、決済用のカードリーダーを購入するなどの手続きを踏まなければならなかった。利用料金や煩雑な手続きが、個人業者がクレジットカード決済を採用するにあたって高い障壁となっていた。

 しかし新興のSquareは、クレジット決済を驚くほど簡単にした。まずアプリストアから無料アプリをダウンロードして、銀行口座を入力しアカウントを作成する。そうするとSquareから専用の小型カードリーダー端末が郵送される。端末をスマートフォンやタブレットのイヤフォンジャックに差し込めば、クレジットカード決済端末として機能するのだ。

Squareはビザ、マスター、ディスカバー、アメリカン・エキスプレスが利用できる。現在のところ利用できるのは米国のみ。

 利用の際は、リーダーでクレジットカードを読み取り、支払い者はスマートフォンの画面上にサインをする。決済終了後、電子メールかSMSで電子領収書を受け取ることができる。現在は米アップルのiPhone、iPad、iPod touch、米グーグルのアンドロイド搭載の携帯端末で利用することができる。

 特に個人業者を中心に集めており、Squareはこれまでリーダーを80万台出荷し、年間20億ドル(約1600億円)の決済を行っている。米国の生活の中でも、タクシーやカフェ、ファーマーズマーケット(農家の野菜直売市場)などで、Squareを利用する店舗が目につくようになってきた。2.75%という手頃な手数料も魅力の一つだ。

クレジット決済を選挙の資金集めに

 このSquareのサービスを、選挙の資金集めにどう使うのか。現在、オバマ大統領とロムニー前知事は、Squareと協力して特別仕様の募金プラットフォームアプリを作り上げた。両陣営が作り上げたアプリは、献金に必要な献金者の住所や雇用主などの情報を入力し、クレジットカードをスワイプすると各陣営に直接払い込まれる仕組みになっている。今まで、クレジット募金では、専用の用紙に必要事項を記入するなどの煩わしい作業が必要だったが、これで簡易に集金できる。

 現在はまだ一般公開されておらず、陣営チームのみで限定的に使えるようになっている。しかし、今後、どの候補者でも利用できるようになれば、支援者はSquare のカードリーダーを装備し、街頭で献金集めをすることができる。クレジットカード社会で現金をほとんど持ち歩かないアメリカだけに、街角や集会といった場での潜在的な利用希望者はかなり多い。

 カリフォルニア州キャンベルでオバマの支援者として草の根活動をする男性は、「(Squareを)知らなかったが、どんなサービスが非常に気になる」と興味を示す。クレジットカードが利用できれば、献金が集まりやすくなると期待する。

 2008年の大統領選挙で威力を発揮したオバマの「草の根選挙戦」を思い返せば、Squareのクレジット決済は選挙活動にパズルの1ピースのようにぴったりはまる。2008年、オバマ大統領は35歳以下の若い世代に圧倒的な支持を受けた。ユーチューブ、フェイスブック、ツイッターといったSNSの活用が、双方向コミュニケーションの草の根活動をまとめ上げる重要なポイントとなった。

 キャンペーンサイトでは、支援者同士が気軽に集まって会合やイベントを開催できるような機能を設置し、全国各地で熱心な支援者が集まった。オバマ陣営は草の根活動によって支えられ、5ドル、10ドルといった小口の献金をインターネット経由で集めて、他の候補者を圧倒した。

 その傾向は今回の選挙でも変わらない。Campaign Finance Instituteによると2011年までにオバマ候補が集めた献金総額の48%にあたる5670万ドルが 200ドル以下の小口現金。一方ロムニー氏が集めた小口献金は、全体の9%にあたる480万ドルにすぎない。ロムニー氏の集金の3分の2は、献金の上限である2500ドルを支払った支援者が占める。大口献金に頼れば、後で息切れしてしまう可能性が高い。

経験と人脈は逆効果

 一方でオバマ候補が囲い込んでいる支援者の多くは、2500ドルまで追加の支援をする「伸びしろ」がある。さらにモバイルクレジットカード決済が、新たな集金マシーンになる可能性もある。新しいテクノロジーは、草の根の選挙活動をさらにパワーアップさせるだろう。

 フェイスブックだけでも、2008年に4000万人だった米国のユーザーは、現在では1億5500万人まで膨らんでいる。前回の選挙以上に、選挙戦で「草の根」の力を集結しやすくなっている。

 近年、米大統領選の候補者像は、明らかに変貌してきている。かつては、政治経験や、企業家や富裕層といった人脈が重要視された。だが、現在は、こうした資質やネットワークを持っていても、長い選挙戦を勝てない時代になっている。いや、むしろ逆に、こうした「古いタイプの政治家」の資質が、逆に国民から反感を買う要素なのだ。

 候補者たちは、草の根から沸き起こる運動をどう盛り上げながら、支援と資金を膨らませていくか、その手腕が問われる。今年も、米国全土の小さな集会が、世界を動かすトップを決めることになりそうだ。

(加藤 靖子)