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ヤフー、“大企業病”回避宣言(上)

「現場を解放する」、新CEOの危機感

 4月1日、日本を代表するインターネット企業、ヤフーのトップが交代する。

 創業から約16年。国内ネット黎明期に産声をあげた小さな会社は、2011年3月期に連結売上高2924億円、連結経常利益1602億円を叩き出す高収益企業に成長した。

 圧倒的な伝播力を持つポータルサイト「Yahoo! Japan」を中核に、オークション、ショッピング、動画配信など無数の事業を展開。グループ社員は5000人を超える。その発言力は、国内ネット業界に影響を与え、業界盟主としての風格を備えるようになった。

 だが、強さは弱さの裏返しでもある。

 安定した収益基盤の一方で、新たなヒットサービスが生まれない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を始めとした新技術の対応に遅れ、後手に回る展開が目立つようになった。「スピード感の欠如」「リスク回避指向」「縦割り組織の弊害」...。そんな声が、社内からも漏れ聞こえてくる。いわゆる「大企業病」を指摘する声があるのも事実だ。

 こうした状況の中、親会社であるソフトバンクグループ総帥の孫正義社長が動いた。経営陣の刷新を図り、往年の勢いを取り戻すため、新たな経営の舵取り役に任命したのが、44歳の宮坂学氏である。現在の井上雅博社長よりも11歳若い。

 「何よりもスピードを取り戻す」と語る宮坂・次期CEO(最高経営責任者)。新たな経営陣とともに、新生ヤフーはどう変わるのか。その構想を聞いた。

(聞き手は 蛯谷 敏=日経ビジネス記者)

(写真:村田 和聡)
宮坂 学(みやさか・まなぶ)氏
1967年11月生まれ、山口県出身。91年3月同志社大学経済学部卒。91年ユー・ピー・ユー入社、企業パンフレット、広告などの制作に従事。97年ヤフー入社。メディア事業プロデューサー、メディア事業部長などを経て、2009年4月にコンシューマ事業統括本部長に就任。4月1日でCEOに就任、6月の株主総会後に社長に就任予定。趣味はマラソン、トレイルラン、スノーボード、自転車など。ホノルルマラソン、東京マラソンへの出場経験もある。

問 4月1日付けで、ヤフーのCEO(最高経営責任者)に就任します。改めて、ヤフーの強みと弱みはどこにあると考えていますか?

宮坂 強みは、やはり「Yahoo! Japan」というブランド力でしょうね。創業から約16年がたちましたが、当社の知名度は、ほぼ全国区になったと自負しています。地方に行っても、消費財とほぼ同じレベルでヤフーの名は知られています。このブランド力は、僕らにとっては大きな財産です。

 16年前は、単なる小さなベンチャー企業だったわけですから、ここまでの知名度を誇る企業に成長できたことは、本当にすごいことですよね。改めて、井上さんを始めとした先輩経営陣の功績を実感しています。インターネット企業としての総合力、サービス運営力ではどこにも負けない自信があります。

問 グループ社員が5000人を超える大所帯となったヤフーは、従来持っていた強さを失いかけているようにも見えます。

「スピード感の欠如」は深刻

宮坂 そうですね。端的に言えば、僕は「スピード感の欠如」に尽きると思っています

問 スピード感ですか。

宮坂 ヤフーは、パソコンが主戦場だったネット黎明期には、そのスピードで一気に国内ポータル事業で覇権を握ることができました。その後も、矢継ぎ早にニーズに合ったサービスを投入して、ある程度の地位を確立することができました。

 これからもパソコンがインターネットの窓口として主流であり続ければ、きっと現状維持でも十分に強い企業であり続けられたでしょう。けれど、ゲームのルールは、大きく変わりつつあります。

問 スマートフォン(高機能携帯電話)の急速な普及ですね。

宮坂 アップルのiPhoneが最初に発売されたのが2007年ですから、今年でちょうど5年です。今のスマートフォンの隆盛を見ていると、僕はWindows95を思い出します。

 Windows95の発売が95年ですから、今は2000年ごろの空気に似ています。みんながWindowsを普通に使うようになって、そこからインターネットにつながって、色々なサービスが誕生しました。それと同じようなことが、これからスマホでも起きてくる。スマホ向けの様々なサービスが生まれてくる時期に入ってきたのだと思うんですね。

 だから、パソコンの世界では横綱相撲をとれたヤフーも、今一度、成功体験を捨てて、新しい土俵に乗り込んでいかなくてはなりません。文字通り、戦いの土俵が変わったのです。

 幸いなことに、スマートフォン上ではまだどんなサービスがヒットするのか、誰も分からない時期です。だから、ヤフーもどんどん勝負を仕掛けていける。

 大事なのは、こうした混沌とした状況では、何よりもスピードが雌雄を決するということです。品質はひとまず置いて、まず作ってみる、まず始めてみるという早さが不可欠なんです。走りながら考えることが大事なんですね。

問 この時代のスピード感の欠如は、決定的な敗因になってしまうこともあるということですか。

宮坂 はい。こう考えた時に、果たして今のヤフーのスピード感で対応できるのか。

 もちろん、ヤフーはそれなりの大きな企業になったし、知名度もあります。「ヤフーの名を冠した以上、変なものは出せない」という意識が芽生え、サービスの作り込みに時間がかかってしまうのは仕方がありません。けれど、それにこだわり過ぎるあまり、サービスの投入が遅れると、モバイルの世界では致命傷になってしまう。繰り返しますが、今は品質よりもスピードが大事な時期なんです。

 「あと1時間あれば高級料理を作れます」もいいんだけれど、簡単でいいからすぐに出せる料理も作れないといけない。僕らはそういう世界で戦っているという自覚が必要なんですね。

 これは経営の意思決定にもいえる。週1回の役員会で決めたことを、「じゃあ、次は来週に」なんてやっていると、あっという間に置いて行かれてしまう。競合はみんな、最先端のネット企業なわけですから、リアルタイムに意思決定できるくらいでないと、負けてしまうでしょう。

スマホメールで意思決定する感覚に

問 具体的にはどう変えていきますか。

宮坂 まず意思決定の仕組みを変えたい。経営陣は、それこそスマホのメールのやり取りで決断していく感覚で、動いていきますよ。

 組織も変えていきます。キーワードは、「現場の解放」です。

問 現場の解放、ですか。

宮坂 現場に近い社員に、極力権限を移譲したいと思います。彼らに企画や開発の自由度をより与えて、挑戦できる場を作っていきたい。今、モバイル事業を統括してもらうCMO(チーフ・モバイル・オフィサー)に就任する村上臣に現場を回ってもらっていますが、社内には面白い技術がたくさん眠っていることが分かりました。

 組織も、できるだけ単位を小さくして、意思決定のスピードを上げていきます。開発スタイルも、最近流行のアジャイル開発など、色々な手法を試して、効果的にサービスを投入できる体制を追求していこうと、経営陣の中で話しあっています。

 余談ですが、新たな経営陣の年齢も、意思決定のスピード向上に寄与すると思っています。僕はもう44歳だから、そうでもないんだけど、インターネットのコアユーザーの年代と経営陣が近いというのは、実は大きなことだと思っています。

 だって、(フェイスブックの)「いいね!」というボタンを押すことがなぜいいのかなんて、論理的には説明できないじゃないですか。「何となく、このサービス響くよね」といった空気を共有できるメンバーで経営できるというのは、新サービスを目利きする上でも、非常に重要なのではないかと考えています。

僕の役割はプロデューサー

問 モバイル以外の新事業事業では、どの分野に力を入れていきますか。

宮坂 ヤフーのこれまでの事業は、すべて消費者の課題をどうネットで解決するかが起点になってきました。それこそ黎明期は、ネットの情報を網羅したサイトがなかったから、ポータルサイト事業を始めました。その後に続く、オークションも、コマースも、消費者の課題をネットで解決することが事業につながっていったわけです。

 その姿勢は今後も変わらない。世の中に横たわっている問題を、ネットで解決する。これがヤフーの取り組む事業なのだと思います。個人的には、昨年の東日本大震災を経験して、ネットが果たせる役割は、もっとあると感じています。事業になるかどうかは別ですけれどね。

 日本は課題先進国と言われますね。こう考えると、ヤフーがネットを使って果たせる役割は、まだまだ沢山あるはずなんですよ。

 そのためには社員の、現場の力が不可欠なんです。社員が、それぞれの問題意識を持って、課題を見つけ出す。それを解消するためのサービスを、速やかに作って、世の中に発信していく。もちろん失敗も沢山あるでしょう。けれど、その中からキラリと光るサービスが出てくるかもしれない。

 僕の役割は、そんな場をヤフーの中で作ることだと考えています。プロデューサーと言い換えてもいいかもしれない。大勢のヤフー社員に自由に踊ってもらう舞台装置を作り、みんなを引き上げていく。この場作りがうまくいけば、きっと新たな事業の柱も生まれるでしょうし、株主の皆さんを満足させられる成長を今後も続けられるはずです。

 これからの3カ月は、経営のバトンを引き継ぐとともに、社員にこうしたメッセージを発信したい。自分でいうのも何ですが、みんな、優秀な社員なんですよ。

 だからこそ、最初の形を見せてあげることが大事なんです。「あ、こうすればいいのか」と気づいてくれれば、すぐに挑戦する企業文化は取り戻せるでしょう。

 驚きを生む会社に蘇らせますから、期待していて下さい。