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Editor's EYE

 2012年は「政治の年」と言われます。これから最高権力者が新たに決まる予定の国は米国(11月)、韓国(12月)、フランス(5月)、中国(10月前後)。すでに大統領・総統選挙を終えたのが台湾(1月)、ロシア(3月)。日本もまた、大阪を震源とした「維新の会」旋風、消費税導入の是非などを巡る与野党内の意見対立など、「政局」へのマグマが溜まりつつあるように見えます。

 とりわけ日本と政治・経済の結びつきが強い米国大統領選挙の行方は多くの人にとっての関心事でしょう。焦点は2つあります。1つは、当然ながら11月に誰が米大統領に選ばれるか。もう1つが、その大統領選挙で現職のオバマ大統領(民主党)と誰が争うのか。共和党の候補者選びです。いま、全米を揺るがしているのは後者の候補者選びのための予備選挙です。
 
 本日「PLUS」に配信した「米共和党有力候補、ミット・ロムニーの素顔」では、渡辺将人・北海道大学大学院准教授が、オバマ大統領と一騎打ちすることになる可能性が最も高い男、ミット・ロムニー氏のこれまでを振り返りました。共和党の「ヒーロー」であるべきこの人物は、4月3日に開票された予備選挙に3選全勝して勢いに乗るものの、しかしまだ党内で盤石な支持を集めているとは言えません。なぜロムニー氏はヒーローになり切れないのか。本日配信した論考と併せて、これまでお届けている記事からその人物像に迫ります。
 
 1月16日付「PLUS」に配信した「米共和党予備選、ロムニー独走なるか」では、最優良とされるつつも支持を固められなかったロムニー氏の“再浮上”をお伝えしました。と、言ってもロムニー氏は自ら勝ち取った地位ではありません。保守派のティーパーティー(茶会党)の支持を集めた女性候補ミシェル・バックマン下院議員、テキサス州知事のリック・ペリー氏、黒人で元ピザチェーンCEO(最高経営責任者)のハーマン・ケイン氏、ベテラン政治家、ニュート・ギングリッチ元下院議長など、ロムニー氏を追い上げた有力候補者たちが、それぞれの理由で力を失い“自爆”していく中で、最後までリングに立ち続けていたのがロムニー氏でした。

 この「敵失」を好機としてロムニー氏が「独走」態勢を築けるかどうかを占う予備選が、1月21日、サウスカロライナ州で開票されました。結果は、ニュート・ギングリッチ元下院議長の得票率40%に対し、ロムニー氏は28%。優勢が伝えられていたロムニー氏敗北の要因を1月24日付「PLUS」の「米予備選、ギングリッチ勝利で長期化の観測も」でお届けしています。1つには、ライバル候補たちが、ロムニー氏が「投資会社の経営者」として財をなしたことに目をつけ、納税申告書を公表するよう迫ったこと。このネガティブキャンペーンは奏功し、ロムニー氏が庶民から遠い「金持ち」であることを印象付けました。もう1つは、ロムニー氏が米国では少数派のモルモン教(正式には「末日聖徒イエス・キリスト教会」)を信仰していることから、宗教的な理由でロムニー氏を忌避する心理が依然として強いこと。当初から判明していた事実ですが、予備選が進むにつれてそのアレルギー反応の大きさが浮かび上がってきました。

 多くの州で同時に予備選挙が開催され、事実上、大統領選挙の候補者が決まるとされる「スーパーチューズデー」、3月7日。その決戦を前に、米国政治研究の気鋭、中山俊宏氏が候補者を定めきれない共和党の「構造」を読み解く「ロムニーはなぜ、勝ちきれないのか」を3月2日付「PLUS」に配信しています。スターになるはずのロムニー氏が勝ちきれず、スター不在のままさまよう共和党支持者たちの揺らぎを次のように分析します。

 実際の予備選が始まると、保守派のロムニーに対する不信感が一定の力学を作り出していった。一見すると、乱高下が激しく、これまでの「セオリー」が当てはまらない選挙である。一方、ロムニーに対する保守派の不信感(仮に「不信感」という言葉が強すぎるとしたら「違和感」)が、ここまでの予備選で常に存在してきた。
 アイオワでは、反ロムニー票がリック・サントラムに向かい、サウスカロライナではギングリッチに流れた。同様の力学が、コロラド、ミネソタ、ミズーリにおけるサントラムのスウィープ(全勝)をもたらしたといえる。さらに、党内反乱分子としてのロン・ポール票も、リバタリアニズムに傾斜する若者と一部の党内保守派の支持を常に獲得している。

 ここで触れられている若者層の支持を集めるロン・ポール氏については、2月15日付「PLUS」に配信した「『FRB廃止、金本位制復活、国連脱退』を支持する若者たち」で、その過激なる政策をお伝えしました。

 「勝ちきれないロムニー氏」は、スーパーチューズデーでも絶対優位に立つことはできませんでした。3月8日付「PLUS」の「スーパーチューズデー、伏兵サントラムの粘りで大混戦へ」では「ロムニー氏が指名獲得をより有利にしたものの、圧勝とは言えず、ロムニー氏、サントラム氏、ギングリッチ氏、ポール氏の4人の候補は、スーパーチューズデー後も選挙戦を継続する方針」とお伝えしています。

 「ロムニー氏以外の誰かを支持する」とロムニー氏を忌避する層と、「それでもロムニー氏しかいない」と他候補と比べてロムニー氏を支持する層。共和党の候補者選びは、この2つの「消去法」が拮抗する中で迷走しています。決定力なき消去法同士の戦い。それは、ロムニー氏が「(引用注:米国の政治ジャーナリスト)マーク・ハルペリンが『ロボット的(robotic)』と称するところのコミュニケーション上の不自然さ」を持ち、「あまりに完璧で、あまりにテクノクラート(too much of a technocrat)で、温かみのある他人に関わろうとするような人ではない(not a warm and engaging person)」と受け取られていることと無縁ではなさそうです。本日配信した「米共和党有力候補、ミット・ロムニーの素顔」で描かれる「素顔」を一読すると、こうした、いわば「決定力はないが、欠点らしい欠点もない男」をヒーローに仕立て上げなければならない共和党・保守派が抱える揺らぎと迷いも浮かび上がってきます。

(池田信太朗)