日経ビジネスDigital速報

直言「ネットで選挙活動やってなぜ悪い!」

「一票の格差是正」だけじゃない公選法改正の効能

  • 佐藤 大吾

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2012年5月29日(火)

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 5月8日、公職選挙法(公選法)を改正し、インターネットを使った選挙活動(ネット選挙)の解禁を訴えるサイト「One Voice Campaign」がオープンした。過去、国会で浮かんでは消えてきたネット選挙解禁を今度こそ実現させるために、学識者や組織人、著名人など趣旨に賛同した有志が立場を超えて協力している。開設から48時間も経たないうちにfacebook上で2000人を超えるユーザーから「いいね!」を獲得するなど、反響は小さくない。この活動の発起人であり、「若年投票率の向上」をライフワークとして取り組むNPO法人ドットジェイピーの代表、佐藤大吾氏が、ネット選挙の重要性を改めて説く。

 そもそも、これだけインターネットが普及した現在にあって、なぜ選挙には活用できないのか。情報発信・情報収集のツールとしてネットの活用を制限することは、もはや国民の利益を損ねているに等しいのではないか――。

 これが、私がネット選挙の解禁を求める理由である。何も、「ネットは自由が尊ばれる文化だからあらゆる規制は極力取っ払うべき」といった崇高なものではなく、実に素朴な考えに基づいている。

 そして、こう感じている人は、私だけではないと思う。

 公選法改正およびネット選挙の解禁については、Yahoo! JAPANが2009年11月から約5カ月で7万2262件の署名を集めた。2010年11月には、eビジネス推進連合会が、1760社にのぼるネット選挙解禁に賛同する企業・個人事業主リストを民主・自民の両党へ提出している。多くの国民が、待ち望んでいることなのである。

 選挙とは、国や地域の方向を決定づける重要な意思決定の機会を、国民ひとり一人に委ねる場である。国の将来を左右する場といっても大げさではないだろう。であるならば、その判断を下してもらうための情報は多い方がよいに決まっている。

 「選挙期間を問わず、候補者はネットを活用してもっと情報を発信せよ!各ネットメディアはそれをもとに国民に対して議論の場を提供し、判断材料を提供せよ!」と指導するほうが、よほど国民の利益にかなうものである。

 ところが、現実は逆の現象が起きている。「選挙期間に入ったらホームページやブログの更新をやめ、ツイッターやSNSなどでの情報発信も行ってはならない」という規制は何だろうか。選挙直前、国民が最も候補者の情報を求めているときに、最新の候補者情報を発信させないというこの法律は、ただちに改正されなければならない。

 世界を見渡してもネット選挙を禁止している国は共産圏のごくわずか。韓国でも昨年12月、憲法裁判所が「ネットを活用した選挙運動は経済的で公平。禁止することは憲法違反である」と判断した。それを受けた中央選挙管理委員会は今年1月、ネットを活用した選挙運動を禁じた選挙法の規制撤廃を発表した。これによりブログ、ソーシャルサイト、電子メール、携帯電話などを使って選挙活動ができるようになった。日本だけが取り残されている印象は拭えない。

今から公選法改正が必要な理由

 自民党政権時代を含め、国会ではこれまでに何度もネット選挙解禁について議論されてきた。特に鳩山総理時代にはあと一歩というところまできたのだが、総理辞任のタイミングと重なってしまい、国会での審議が流れ、成立には至らなかった。

 その後もずっと検討は続いているが、進展しない。選挙日程が近づかなければ盛り上がらないという理由もあるが、実際、選挙日程が近づいてからだと国会での審議日程に余裕がなくなり、時間切れとなってしまう。

 「そろそろ選挙があるのでは?」という声も聞こえてはいるが、どんなに遅くとも来年2013年には参議院議員選挙がある。衆議院議員も任期満了を迎える。

 選挙は議員や候補者のための制度ではない。有権者のための制度である。

 「法改正は国会議員の仕事」と他人事のように考えていては、何も変わらないまま選挙に突入してしまうだろう。本当に公選法改正、ネット選挙解禁を望むなら、今、このタイミングで取り組みを本格化しておく必要がある。

 「誰に一票を投じるかを決める上で、有権者がもっとも候補者に関する情報を必要としているこの選挙期間に、まさかの情報量制限という、まったく逆の規制を行っている公選法はみんなで変えよう」。これが、One Voice Campaignの趣旨である。ひとりの有権者として何ができるかを考えて頂く参考としてもぜひご注目いただきたい。

友人の選挙活動で受けた衝撃

 振り返れば、私がネット選挙解禁の必要性を考えるようになったのは2003年のことだった。きっかけは、友人が選挙に立候補することになり、「自分の主張をできるだけ若い人に訴えるにはどうしたらいいか」と相談を受けたことに始まる。

 新しい候補者、特に若い候補者にとって、選挙はたいてい非常に厳しい戦いになる。年配者を中心とした毎回欠かさず選挙に行く人の多くは、すでに支持政党や支持候補者が決まっており、新人の若年候補者はこの層からの支持は期待できない。つまり若者など特定の支持政党や候補者を持たず、その時々で誰に投票するかを決定する「浮動票」の開拓が必要となる。

 「若い人はどこに集まるか」「どこで主張を訴えたら、若い人に届くのか」。そのことを考えていくと、すぐにネット活用の有効性にたどり着く。多くの若者にとって、ネットはテレビや新聞よりも身近なメディアになっていたし、政策や主張を訴える上でネットを活用することは、ビラやポスターなどの紙を使うことよりも、コストを低く抑えることができた。

 さらにネット上で若者に向けて自分の意見を述べたり、政策を訴えたりすることで得られるユーザーからのコメントや質問などは、政策を作る上で非常に有益であった。

 友人は選挙の数カ月前からネット上で政策を主張し始め、順調にアクセス数も伸びていった。もちろんネットユーザーは自分の選挙区民だけではないし、そのユーザーとのやりとりも候補者にとって好意的な意見ばかりではない。ときには反対意見や厳しい指摘を受けることもあるし、質問には返事をしなければならない。その友人は「それを苦痛や手間だと考えるか、あるいは市民と向き合った対話だと考えるか、まさに自分の政治姿勢が問われているような気がする」と言いつつ、日中の外出活動から帰宅した後の夜間に、積極的なネット活動を続けていた。

 そしていよいよ明日から選挙期間に突入するという日の夜、友人はネットにこう書き込んだ。

 「明日から選挙期間に入ります。選挙期間中のホームページ更新は公選法で禁止されているため、しばらく書き込みができなくなります。」

 「は?」。

 唖然とするしかない。私でなくても多くのユーザーが疑問に感じたことと思う。これまでネット上で盛んに政策を訴え、ユーザーと交流し、いよいよ投票日まであとわずかというこのタイミングでなぜ更新できなくなるのか。友人は投票直前に政策を訴える機会と場所を奪われることになって残念がっていたが、多くのユーザーからも「なぜだ!?」という質問が相次いだ。

 特定の支持政党や候補者を持たない若者たちの多くは、投票日の直前までネットや報道で情報を収集して投票先を決定する。特に小選挙区選挙になって以降、浮動票の行方は最後の5日間で決まると言っても過言ではない。この大事な時期にこそ、有権者は候補者の主張が知りたいし、意見を聞きたい。公選法は当然ながら「候補者のための法律」ではなく、「全国民のための法律」であるのだから、この要請にもこたえるべきであろう。

ネット選挙解禁、3つの論点

 最後に、ネット選挙の何が問題なのか。ネット選挙の解禁に対する反論としてよく挙がるのは以下の3点である。

 (1)お金が余計にかかる

 (2)なりすましを完全には防ぐことができない

 (3)ネットを使えない人もいるので不公平

 一つひとつ見ていこう。

(1)お金が余計にかかる

 ネットはお金がかかるから導入すべきでないという主張がある。

 ここでいう「お金」とは、まず候補者が開設するホームページの作成費や、ドメイン代、サーバー代などが考えられるが、今ではクラウドサービスの普及により、様々な民営ネットサービスが活用できる。コストはかなり限定的に抑えることができる。民営サービスについてセキュリティの面などを懸念する声もあるが、すでに多くの公的機関、公的サービスのシステム運営は民間が担っているのだから、これと同様に政府の責任のもと、民間委託などで実現可能なはずだ。

 もう1つのお金とは運用コスト、つまり「更新する手間」のことであろう。「日々情報を発信しなければならない」「質問されたら答えなければならない」「(技術的、または時間的な理由で)自分はできないから、ネット担当の秘書を雇わなければならない」といった声がある。しかしこれら有権者とのコミュニケーションについては、むしろ政治を志す人にとってお得意なことなのではないだろうか。ネットでの情報発信や質問への対応は手間はかかるが、コツコツと重ねることで支持を拡大する人もいる。「やり始めると手間がかかるから全員でやめておこう」という理由ではあまりに悲しい。

 もっと言えば、お金がかかると思うならその作戦は使わなければいいだけだ。選挙区事情や方針によって、あるいは費用対効果を考えて使うか使わないかは候補者が自由に決めればいいのである。公選法で認められているにもかかわらず有権者への電話かけをやらない候補者もたくさんいる。法律で禁止する必要はまったくない。

(2)なりすましを完全には防ぐことができない

 「新しいルールを作っても、破る人が出てくるといけないのでやめておこう」という声もよく聞く。

 では、「現状のルールは完ぺき」と言えるのかと問いたい。実際、選挙のたびに違反者が出ているし、そもそもどんなルールも完全ではない。常に不備を突いてくる者、破る者が出てくるし、そのために罰則規定があり、警察や裁判所が存在する。時代によって世の中の実態は変わるので、それに対応した新しいルールが必要になるのは当然なことである。

 既存の制度や仕組みは黙認し、新しく登場する制度や仕組みにだけ100点を要求するようでは、永遠に新しいものなど生まれないのではないか。もちろん新ルール上で起きうる可能性を検討しておくことは重要なことだが、現状ルールとの比較でプラス面が大きいのであれば、率先して導入していくべきではないか。

(3)ネットが苦手な人もいるので不公平

 演説が苦手な候補者もいるし、電話が苦手な候補者もいる。まったくボランティアに手伝ってもらえない候補者もいる。すべての作戦を同じにすることが公平なのではない。

 ネットは演説や電話と同じ、あくまでも有権者に情報を伝えるための手段なのである。苦手な作戦を減らし、得意な作戦に集中するのも候補者の自由である。ネット選挙が解禁されたらビラも配らず、電話もかけず、ポスターも貼らず、街頭演説もせず、「ネットでの活動だけで当選しました」という議員が出てくるかもしれない。

 加えて、ネット回線やパソコンのみならず、スマートフォンの普及度合いも併せてみれば、すでにネットは十分に社会インフラとなっており、「ネットを使える環境にない」という候補者への配慮はもはや不要であろう。

 「そんなことで当選していいのか?」という声も出るだろうが、今からそんな心配をする必要はない。それがいいか悪いかを決めるのは有権者だし、だめだと判断されて落選するリスクをとっているのは候補者である。

 ここまで述べてきたネット選挙解禁についてだが、実は与野党ともにかなりの国会議員が賛成の意を表明している。いまだに反対しているごく一部の議員もいるにはいるが、まずはたくさんの法案が審議される国会において優先順位を高めていただく必要がある。そのためにはたくさんの人が「解禁が必要だ」と声を上げることだ。ネット選挙の解禁は候補者のためのものではない。国会議員だけにお任せするのではなく、私たち自身やれることがある。たとえば冒頭の「One Voice Campaign」に参加することもその一つだ。

佐藤大吾(さとう だいご)
1973年大阪生まれ。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。企業でのインターンシップ導入支援事業や、商工会議所主催検定を立ち上げるなど、途中企業合併を経つつ一貫してキャリア教育事業に携わる。98年、議員事務所などでのインターンシッププログラムを運営するNPO法人ドットジェイピーを設立。2010年3月、英国の寄付仲介サイト「JustGiving」の日本版を立ち上げ、日本での寄付文化創造に取り組む。

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