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「糸へん」小耳早耳

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「ヒートテック」はまだまだ売れるか

合繊主体の保温肌着の限界

南 充浩=フリーライター、広報アドバイザー

 朝晩は肌寒い日が増えてきた。そろそろ保温肌着が欲しくなってくる時期である。そこで、今シーズンの保温肌着市場について考えてみたい。

肌着メーカーは天然素材に回帰

今春に開催した肌着メーカー各社の展示会では「天然素材志向が強まる」との見方が大勢を占めた。肌着メーカーの展示会は半年前に行われるのが通例であり、ちょうどこの時期は、来春夏向け商品の展示会が開催されている。来春夏向け商品でも各社は「天然素材志向は継続する」と読んでおり、グンゼもアングルも綿100%や綿混、麻などの天然素材を使用した商品を打ち出していた。

 昨年秋冬まで保温肌着といえば、合繊機能素材主体の商品が市場を埋め尽くしていた。その嚆矢となったのはユニクロの「ヒートテック」である。

 それまで高価格だった保温機能性インナーを低価格ゾーンに引き下げた。今秋冬物のヒートテックインナーの素材組成を見てみると、ポリエステル34%、レーヨン33%、アクリル27%、ポリウレタン6%(メンズ半袖インナーの一例)となっており、すべて合成繊維で製造されている。レディースやキッズは混率が変わるが、使用素材に大きな違いはない。

 ユニクロのホームページによると、素材組成がすべて合成繊維となったのは2006年からとなっており、それまではポリエステルとポリウレタンに加えて中空綿(繊維の中心部分が空洞になった綿糸)も混紡していたという。当初、中空綿を使用していたのは、空洞である中心部分が空気層となり、温度を遮断する効果があるからだろう。それと中心部分が空洞であるため、重量も軽くなる。

 ユニクロの「ヒートテック」は今年で誕生10年だそうである。この大ヒットを見て、イトーヨーカドー、イオン、しまむらなどの量販店各社が合繊主体の低価格保温肌着を次々と後追い企画した。ユニクロによると、10年間の「ヒートテック」の累計販売枚数は3億枚。9月下旬に発表した今秋冬の販売目標は全世界で1億3000万枚と、相変わらず強気な計画である。

 しかし、ある大手合繊メーカーの社員は「今秋冬の合繊保温肌着市場はそれほど伸びないでしょう。すでにユニクロが過去10年間に渡って販売してきたため、一人の消費者が数枚以上を所有しています。その上、後追い企画で量販店各社が大量販売したため、かなり広範囲の消費者にまで複数枚行き渡ってしまいました。今後この商品群は大きく伸びないと考えています」と話す。

 筆者が昨年秋冬に店頭を見たところ、「ヒートテック」人気も沈静化した雰囲気を感じた。人気のピークは2008~2010年だったと感じている。これはあくまでも体感だが。

2種類売られている「ヒートテック」

 今、ユニクロの店頭には2種類の「ヒートテック」があるのをご存知だろうか。今季版と2011年モデルである。定価は少し値下げした今期版に合わせてある。何人かの知り合いが店員に問い合わせたところ「昨年の在庫品です」という答えが返ってきたという。それなら今年3月に打ち出した「1億枚完売宣言」は何だったのだろうか。店頭での完売ではなく、工場や物流倉庫から全品出荷したという意味だったのだろうか。謎は深まるばかりである。

 10月10日を過ぎた現時点では、だいぶ「2011年モデル」の陳列量も減っているように感じる。しかし、「ヒートテック」が入荷した今年の7月20日ごろは各店ともそれなりに豊富に並んでいた。

 今回「ヒートテック」完売の謎を探求する気はない。ただ、人気の沈静化を感じた昨年秋冬店頭の勢いはやっぱり鈍化していたのではないだろうか。これを見て、肌着メーカー各社は今秋からの「天然素材志向回帰」を強めたと推測する。各メーカーによると、「綿やウールなどの天然繊維の保温肌着はどこで売っているのですか?」という電話などでの消費者からの問い合わせが一定数量あったことも要因となっているようだ。

 ある商社の元社長は以前、合繊保温肌着について「体から蒸発する水分を吸収して熱に変えて放出するため、皮膚が乾燥しやすいという欠点がある」と指摘した。そのため、カサカサしたりかゆみを持ったりする人もなかにはいるかもしれない。この元社長は「湿潤な日本の気候ならまだしも低湿度の欧米の気候ならかなり乾燥が強く感じられるのではないか。あくまでも個人的意見だけども」と付け加えていた。

 今秋からの「天然素材回帰」にはこうした側面が影響している部分もあるように思う。綿もウールも体表からの水分を吸収はするが、合繊ほど即座に放出することはない。このため合繊肌着ほど乾燥を感じることは少ないだろう。たしかに綿100%の肌着着用者で「肌の乾燥」に困っている人はあまり見かけたことがない。逆に肌荒れのひどい人は、合繊肌着を避けて天然素材肌着を着用する場合が多い。もっと過敏な方は、オーガニックコットンの肌着を着用していると聞く。

 今秋の肌着メーカーの展示会にお邪魔した際に、春先の提案が気になっていたので「秋物の保温肌着の動きはどうですか」と尋ねると、「高気温が続いたせいか動きがほとんど見られません。天然素材製品というよりも保温肌着というジャンルの商品自体が動いていません」との答えが返ってきた。メーカーの読み通りに天然素材の保温肌着が売れ行きを回復させるか、それとも強気の1億3000万枚が達成するかは、まだもう少し先にならないと分からないようだ。ただ、店頭での目新しさと年配層の根強い天然素材志向を考えると、天然素材の保温肌着はある程度注目されるのではないかと考えている。

南 充浩(みなみ・みつひろ)
南 充浩(みなみ・みつひろ) フリーライター、広報アドバイザー。1970年生まれ。洋服店での販売職・店長を経て繊維業界紙に記者として入社。その後、Tシャツメーカーの広報、編集プロダクションでの雑誌編集・広告営業を経て、展示会主催業者、専門学校広報を経て独立。業界紙やウェブ、一般ファッション雑誌などに繊維・アパレル業界に関する記事を書きつつ、生地製造産地の広報を請け負っている。