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あなたの知らない「すごい組織」

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陸上自衛隊が誇る4000人の精鋭部隊

50度近い過酷な環境でも「日本品質」の国際貢献

多田 和市

 チームプレーは日本の「お家芸」とよく言われる。一人ひとりの力は小さくても、チームとして各自の役割を決め、知恵を出し合い、励まし合って取り組めば、不可能を可能にすることもできる。それこそ組織の力だ。

 「日経ビジネス」は10月22日号で「奇跡を起こす すごい組織100」と題した特集をまとめ、企業や団体から復興支援やスポーツ、先端科学研究のチームまで、成果を上げているすごい組織を100事例取り上げた。この特集と連動して、「日経ビジネスDigital」では今日から5回にわたり、一般にはあまり知られていないすごい組織の実像を紹介する。

 1回目の今回は、防衛省陸上自衛隊の中でも精鋭中の精鋭部隊と言われ、過酷な環境下で活動に従事する「中央即応集団(CRF)」に迫った。

 一般にはあまり知られていないが、約15万人の防衛省陸上自衛隊には、国内でのテロやゲリラによる攻撃や大災害などへの対応、国連平和維持活動(PKO)をはじめとする国際活動といった特殊な活動に従事する「すごい組織」がある。「中央即応集団(CRF)」という約4000人の組織だ。

 昨年発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故に際しては、CRFに所属する「第1ヘリコプター団」及び「中央特殊武器防護隊」などが関連施設に給水・放水・消火活動を行った。陸上自衛隊の中でもとりわけ海外で活動ができる組織だけに、人気が高く、志の高い精鋭が集まっているという。現在、南スーダンやハイチ、東ティモールなどで国際貢献活動を行っている。

 今年1月中旬から3月下旬にかけて、CRFは国際貢献活動の一環として、アフリカの南スーダンに約210人の部隊(先遣隊、第1次要員)を派遣した。南スーダンは昨年7月、スーダンから分離独立し、国連を中心に各国から「国造り」のための支援を受けている。

 CRFの先遣隊はまず、まさに何もないところにテントを張って、宿営地の整地と道路の修復などに取りかかった。今年6月から南スーダンで本格的な協力活動を展開している第2次要員の施設部隊が生活するための基盤作りが主な任務だった。

何もないところに整然と張られた先遣隊のテント及びその内部
(c)陸上自衛隊中央即応集団

「活動7割」作戦を実行

 2月中旬に現地入りした先遣隊の坂間輝男隊長(現・陸上自衛隊富士学校普通科部教育課第1戦術班教官)は、作業が昨年12月に立てたスケジュール通りに進んでいることを確認できた。だが、テントでの生活が隊員の体に予想以上のダメージを与えていることも分かった。

南スーダン先遣隊の隊長を務めた坂間輝男・陸上自衛隊富士学校普通科部教育課第1戦術班教官(写真:稲垣純也)

 現地の外気温は46~47度に達し、テントの中も40度を超える。炊事所ができるまでは食事も携行用のパック飯で我慢。約2カ月間は簡易トイレしか使えず、汚物を凝固剤で固めて処分しなければならなかった。

 熱帯夜が延々と続く中、先遣隊の隊員はほぼ全員が腹を下し、多くが点滴を打った。「テントの備え付けエアコンは全く利かず、ウガンダなどから調達したペットボトルの水をひたすら飲んで暑さに耐えるしかなかった」と、先遣隊に加わった隊員は証言する。

 そこで坂間隊長は3月初め、「活動7割」作戦を実行することにした。

 毎週月曜7時半からの朝礼と毎週金曜夕方の終礼で、坂間隊長は「活動を7割程度に抑えるように」と繰り返し指示を出した。

「先遣隊はよく鍛えられていてポテンシャルが高い。7割の力でも十分に計画した作業をこなせる。3割の余力で自分自身の健康状態や建設機械・車輌などの安全点検に気を配るようにさせた」(坂間隊長)のだ。

 3月中旬には、禁酒を解いた。過度のストレスを溜め込まないようにし、事故を未然に防ぐ措置を取った。ストレスは、海外協力活動では大きなリスクになる。CRFにはメンタルヘルスに関する専門の部隊があり、海外派遣に行く隊員を中心にストレスコントロールなどについて指導している。

戦略的な輸送・補給体制を敷く

 先遣隊が課せられた任務を遂行するうえでポイントになるのは、建設機械などの輸送や水・食料、消耗品、燃料などを手際よく補給する体制だ。何もない海外の拠点で施設作りをするには、必要なモノが必要な時にないと作業がスムーズに進まない。「すごい組織」には、戦略的な輸送・補給体制が不可欠となる。

 宿営地の整地や道路の補修・整備などに使った建設機械は、日本から輸送用飛行機でウガンダのエンテベ空港に運び、その後は重機を含む大型車両などは陸路で3~4日かけて南スーダンの宿営地まで運んだ。軽い車輌などは中型航空機に載せ換えて南スーダンの首都にあるジュバ国際空港に空輸した。

 燃料はジュバ市内で手配したが、冷蔵庫やクーラーボックス、紙皿などの消耗品をウガンダで調達して業者に運んでもらった。先遣隊の補給係を担当したCRF司令部後方補給部の西山義康氏は「必要なモノが必要な時間内に調達できるか、神経を尖らせた」と話す。

 CRF司令部の鶴村和道・後方補給部長は「派遣の前の十分な調査と、補給に関するしっかりとした計画と準備、訓練が重要だ。しかし、現地に行ってモノを買うことは訓練しにくい。だから派遣前の視察では、現地の商習慣をしっかり見ておく必要がある」と話す。

 それでも想定外だったのは、隊員が飲む水の量の多さ。調達する水の量を増やし、ウガンダからの調達頻度を2週間に1度から1週間に1度に切り替えた。「予備調査に行った昨年11月に比べて、派遣された今年1月中旬は想像を超えて暑かった」(西山氏)という。

 炊事所が使えるようになってからは、担当者が料理を作った。野菜や肉などの食材と冷凍冷蔵コンテナは国連から調達した。

 ものすごい暑さだったこともあり、国連からトイレ・シャワーコンテナ(トイレ×3とシャワー×3内蔵)を借り、トイレとして使った。4月中旬には、日本から空輸されたトイレコンテナを使うようになった。

 坂間隊長はこう総括する。

「南スーダンのど真ん中に物資を運ぶのは大変だった。しかし、今回は十分な準備ができた。2010年のハイチ派遣での成功体験が生かされたからだ。建設機械などの輸送は日通が担当したが、自衛隊のニーズに合うように細かく対応してくれた。宿営地を作る場合、段取りがポイントになる。人数が増える前に、送られてきたテントを整然と張る。整地した後にコンテナハウスやシャワーコンテナなどを順番に設置していく」

 宿営地作りと並行して、先遣隊は現地で支援活動に当たる国連南スーダンミッション(UNMISS)と調整して、日本が行うべき国際貢献活動を決めてくる。今回の貢献活動の1つが、ウェイステーション(一時泊まり所)の建設だった。「施設作りなどを中心に、日本の部隊に任せれば安心だと評価されている」と坂間隊長は話す。

陸上自衛隊の中でも精鋭が揃う

 CRFをトップとして引っ張る日高政広・司令官は「うちの組織には、『海外のPKOにぜひ参加したい』という志の高い人間が4000人集まっている。世界から高く評価されており、日本の自衛隊はすごいなと言われている」と話す。

CRFの日高政広・司令官(写真:稲垣純也)

 CRFは、陸上自衛隊の中でもほかにない機能や能力を備える「オンリーワンの組織であり、ナンバーワンを目指している」(CRFの日高政広司令官)。

 陸上自衛隊唯一の落下傘部隊である「第1空挺団」、陸上自衛隊最大の航空科部隊である「第1ヘリコプター団」、主に海外協力活動の先遣隊として派遣される「中央即応連隊」、テロやゲリラによる攻撃に対処する「特殊作戦群」、核・化学・生物兵器に対処できる「中央特殊武器防護隊」、生物剤の同定および治療を行う「対特殊武器衛生隊」、国際平和協力活動に必要な教育訓練や調査研究に当たる「国際活動教育隊」で構成しているからだ。

中央即応集団(CRF:Central Readiness Force)とは?
 2007年3月28日、防衛大綱(2004年12月)に示された防衛力を果たすため、国際平和協力活動などや国内における各種事態(ゲリラや特殊部隊による攻撃など)に即応するために新たに編成された、陸上自衛隊の方面隊と同様に防衛大臣直轄の部隊。場所は朝霞駐屯地内。

 さらに海外では、国連の要請に応じて、PKOや国際緊急援助活動を行っているほか、ソマリア沖において海賊対処などの国際任務に当たっている。2007年1月防衛庁が防衛省に移行。PKOなどが本来任務になったことが、CRF設立の背景にある。こうした国際平和協力活動などはCRFが各方面隊から派遣された隊員の指揮を執る。現在南スーダンで施設作りに取り組んでいる最大約330人の施設部隊は、各方面隊から派遣された隊員で構成し、CRFの指揮下にある。

 「これを今自分がやらなければ、誰がやるのかという強い使命感がある」と、CRFのある隊員は熱く語る。CRFが「すごい組織」である理由は、国際貢献という大きな任務を背負っているからにほかならない。