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第2回「立派な事務所を作る金があるなら、工場に使う」

2012年7月13日(金)

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 千葉製鉄所建設に対する世論の逆風が吹く中、通産省の若手官僚たちは「西山さん、一貫製鉄所、賛成です。ただし旧式のまねでは駄目です。最新式の高能率で良質の鉄をつくる素晴らしいものだったら大賛成。支持しますよ」と励まし、第一銀行頭取酒井杏之助は「すでに矢は弦を離れた。当行としては、川崎製鉄を見殺しにすることはできない。総力を挙げて支援する」と決意し、「賛否五分五分ならば、当然やらせるべきだ。2、3年先の需給状況によっては、川崎製鉄が苦しむ事態が起きるかもしれない。そうなったときは、八幡製鉄としても川崎製鉄を大いに援助していく」とライバル企業の八幡製鉄社長三鬼隆(鉄鋼連盟会長)が日銀の政策委員会で表明し、日本開発銀行理事の中山素平(のち興銀頭取)も「競争力のあるプロジェクトだ」と推し、ついには「法王」一万田尚登日銀総裁も「千葉製鉄所が国家的に必要であるという点で業界が一致するなら、計画は大部分が自己資金であるし、金融の観点からのみで反対すべきことでもない」と折れた。

 彼らは西山の鉄づくりに賭ける情熱を知っていたのだ。

工場に足を運び「現場が研究の場だ」と繰り返し教えた

 西山は亡くなる直前まで、夏はカンカン帽に開襟シャツ姿で、冬は作業帽に作業服姿で、日に数回工場を見回り、技術者たちと激論を交わし、工員たちと直接話していた。石灰石用のエレベーターに乗っている者には「おい、そんな重い荷と一緒に人が乗ったらいかん。このエレベーターは人が乗るものではなく、石灰石を運ぶのに使うものだ」といい、操業表を見て「製鋼時間が長いぞ。もっと早く出せよ。鋼塊はいくらでもいるんだぞ」と発破をかけ、炉をスコップで補修している者に「おい、止めろ。今どきそんなことをするな。機械でやれ」と注意する。

 圧延機の工員には「俺は製鋼の湯(溶鋼)沸かし上がりだ。きみは圧延機だから、大いに機械の改造をやってくれ」と励ました。若くて血気盛んだった製鋼課長時代には、技師や工員たちが長椅子にすわっていたのを見て、椅子を炉にくべて燃やしたり、炉が熱いので尻を向けている者に、「いつ炉がこっちを向いたかね?」と皮肉をいったりもした。見回ったあとは、必ず工場長に電話をかけるか、直接工場長室に赴くかして、こまごまと注意をした。技師たちには「現場が研究の場だ」と繰り返し教えた。

 西山が亡くなったとき、社内報『川崎製鉄新聞』に大勢の工員たちが思い出を寄せている。

 「いつもカンカン帽をかぶり、一人で工場内を巡視されていた会長(西山弥太郎)の姿は、今日もいずこかを巡視されているかのように思われてなりません。今でも忘れ得ぬ思い出が私にもあります。

 一つは、昭和26年の1月3日(当時佐藤は38歳くらい)、私が新春の作業準備にかけまわっている現場で、会長とバッタリ出会ったときのことです。『おめでとうございます』と新年のあいさつを申しあげますと、会長はカンカン帽子を脱がれ『やあ、おめでとう。正月早々ご苦労さん、しっかり頑張ってくださいよ』と丁寧にあいさつされました。私が頭を上げますと、会長はまだ頭を上げきってはおられませんでしたので、私の身体中電気がかかったようでした。その瞬間、思わず目にいっぱい涙が浮かび、しばらく立ち去られる姿を見送りました。私はあのときぐらい、真剣な尊い気持ちに打たれたことはありません。

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「第2回「立派な事務所を作る金があるなら、工場に使う」」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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