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いまの苦しみは、ひどくつらいものだからこそ、必ず和らぐ

【53】短刀の曲芸

  • アラン

  • 村井 章子

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2012年7月9日(月)

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【52】旅から読む)

今日の一言

いまのことを考えなさい。生きる歩みはこの一瞬、次の一瞬と続き、どの一瞬のあとにも次の一瞬が来る。

 ストア派の精神の強さはよく知られている。ストア派の人々は、憎悪、嫉妬、恐怖、絶望といった情念について深く考え、腕利きの御者が馬を操るように、情念を制御できるようになった。

 ストア派の思索の中で私がずっと気に入っていて、一度ならず役にも立ったものの一つは、過去と未来についての思索である。「われわれが耐えなければならないのは現在だけである。過去も未来もわれわれを苦しめることはできない。なぜなら過去はもはや存在せず、未来はいまだ存在しないからだ」

 たしかにこれは正しい。過去も未来も、私たちが考えるときにしか存在せず、それらはあくまで考えであって、事実ではない。私たちは過去を考えては後悔し、未来を思っては不安に苛まれ、自分で自分を苦しめている。

 私は、額の上でたくさんの短刀を継ぎ足していく曲芸を見たことがある。おでこから恐ろしい木が生えてきたような具合に、曲芸師はバランスをとっていた。同じように私たちは、後悔と不安を継ぎ足して保っている不注意な曲芸師である。そんなものは一分で捨ててしまえばいいのに一時間、一日、いや何日も何カ月も何年も持ち続けている。

 足の悪い人は、昨日も苦しんだ、ずっと苦しんできた、明日も苦しむだろうと考え、人生を嘆き悲しむ。こんなときには知恵は無力で、いまここにある苦しみを取り除くことはできない。だが心の苦しみなら、過去の後悔と未来の不安さえ癒えれば、すっかり取り除かれるだろう。

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