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イートン校のパーティ~分身の警告

ポーの「ウィリアム・ウィルソン」を読む(3-1)

2012年10月30日(火)

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イートン校のパーティ

 今回はウィリアム・ウィルソンのイートン校での生活のエピソードである。ブランズビー校を抜けだして退校して以来初めて、イートン校の「狂乱の宴」の場に、Xがふたたび登場する。具体的な内容は明らかではないが、主人公の愚行をやめさせるための警告を与えるためだった。

 背がすっかり伸びた主人公と同じように長身になったXは、今度は学生の主人公と同じ流行の仕立ての「白のカシミアのモーニング・コート」を身にまとって登場する。「低くかすれたような異様な声」でXは、主人公の一番の弱みである「ウィリアム・ウィルソン」と、彼の名前をささやいて退場するのである。

 ここではXは、ただ主人公の衣装をまねて、これから主人公がしようとする悪を戒め、警告するために登場するにすぎない。次のオクスフォード大学の場面では、主人公がすでになした悪を暴露し、大学での地位を崩壊させるのとは対照的である。ここではXはこれらの事態を予告するにすぎないのである。

 これにたいしてオクスフォード校でのエピソードでは、Xは明確に異なった役割を担って登場する。この場面で主人公の分身であるXが、それまでとは違って、誰にも見える明確な他者として登場することに注目しよう。これは今までにはなかったことであり、そのことはXが残していった外套に象徴される。二枚の外套は、Xが幻想ではなく、身体をもつ分身であることを明確に示しているのである。

 それはこの場面でのXの役割が、主人公の二重人格を暴くことにあったことと、無関係ではないだろう。大学で主人公は、「オクスフォードでもっとも気高く、誰もが知っているあのウィリアム・ウィルソンが、あの陽気で、率直で、気前のよいぼく」として知られていたのである。それは詐欺師がかぶっていた仮面にほかならないのだった。

 ブランズビー校ではブランビズー校長が、厳しく生徒をむち打つ校長でありながら、教会では「いかにもまじめそうで親しみ深い面持ちで、牧師らしいローブをひらめかせ」牧師としてふるまっていることに、幼い主人公は驚嘆したのだった。「なんとも巨大な逆説、解きほぐすこともできないまったく怪物的な逆説」を、「二人のなかの一人」を、主人公は大学で反復したのである。

 この仮面を剥ぐためには主人公が「そのような悪行に手を染めていたなどとは、明白な証拠をつきつけられる」必要があったのであり、Xはそのために敢えて生身で登場する。そして役割をはたすと、その生身は消滅して、ただ外套だけが残されたのである。今度はたんに流行の仕立てではなく、特注の「幻想的な仕立て」の外套、ほかに同じものが一枚とありえないはずの外套を、記念品のように置いてゆくのである。

 では、第三部の前半部分、イートン校のエピソードをお読みいただこう。

(第一部、第二部は、こちらからお読みください)

******

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「イートン校のパーティ~分身の警告」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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