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魂と身体を支配する「あいつ」

モーパッサン「オルラ」を読む(8)

2013年1月8日(火)

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第二類型の異次元の異体型

 最後に、第二類型の異次元の異体型について考えておこう。前の同体型では、身体的には一つの存在しかなく、片方は現実性をもち、片方は現実性を喪失していた。この異体型では、二つの同一者が完全に同じ資格で存在するものである。SFのタイム・トラベルものにはこのタイプの分身がよくみられる。

 たとえばアイザック・アシモフの『永遠の終わり』は、時間の技術士が、過去の時間に手を加えて、人間の世界が永続するように細工する物語である。技術士は、時間の流れの中から素質のある者を選抜して訓練されるのである。

 選抜された者は、その時代を離れて遠い未来につれてゆかれる。そのため、技術士が注意しなければならないのは、過去の時間に手を加えるときに、過去の自分に出会わないようにすることである。観察士として最初に教えられることは、「現実の同一の時間に二つの異なった点を占める人間は、自分自身に出くわす危険を冒していることになる」[1]ということである。理由は分からないが、これは絶対に避けねばならないという。

 このタイム・トラベルで自分自身に出会ってはならないというのは、なぜか決まりでもあるかのように禁忌とされていある。その理由は明かされない。年老いた自分が若い自分に出会ってもいいではないかと思うのだが、これは厳しく禁じられる。自己同一性が崩れるというのだろうか。

 実際に主人公は、時間の操作の旅で、自分と直面しようとする。過去の時間の中での自分ではなく、タイム・トラベル中の数日前の自分と出会いかけたのである。「彼は彼自身に会ったのだ。おなじ時間、そしてほぼおなじ場所で、彼と彼の数生理日前の自己とは、あやうく顔をつきあわせるところだった」[2]のである。背中から姿をみただけで、顔をつきあわせることはなかったのに、彼は激しい恐怖に襲われたのである。

 この異次元の同体型の分身は、なぜかたがいに顔をつきあわせることを激しくおそれているようである。この禁忌はどこか神学的な匂いがする。

旅行による解放の可能性の消滅

 「オルラ」では主人公はやっと第三回目の旅行にでかけることに成功する。そこで資料を借りてきたのだ。そして主人公は透明な生き物から解放されたことに感謝する。しかしそれは馬車に乗るまでのことだ。馬車に乗るとともに、主人公はふたたび透明な生物に支配される。

[1]アイザック・アシモフ『永遠の終わり』深町真理子訳、ハヤカワ文庫、139ページ。
[2]同、175ページ。

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「魂と身体を支配する「あいつ」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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