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オルラの登場

モーパッサン「オルラ」を読む(9)

2013年1月15日(火)

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 主人公はある雑誌で気になる記事を読む。ブラジルで伝染性の狂気が流行しているというものである。この記事に主人公は飛びつく。そして奇妙な飛躍のある推論をする。しばらく前に主人公はセーヌ川を溯る白いブラジル船をみた。ある船にそいつがとり憑いていたに違いない。このものは伝染性だというが、物体的な身体性をそなえているのであり、ぼくの白い家が気にいって、船から降りてぼくの部屋に住み着いたに違いない、というのである。

 主人公はこのものの行動を歴史をさかのぼって見定めようとする。そしてすべての怪物も、悪魔も、メスメルの考えた動物磁気も、催眠術も、このものの働きだと考え始める。このものが目指しているのは、人間の支配であり、人間を食べつくすことである。この推論によって、この敵は主人公の敵ではなく、破壊すべき人間の天敵であるということになる。

 主人公の闘いはこうして、彼一人を苦しめる敵との闘いではなく、人間の種の存続をかけた闘いとなる。この闘いは絶望的なものと思える。これは人間の種族を支配することのできる優越した存在だと思われるからだ。彼はその生き物に名前をつける。オルラHorlaである。オール(hors)とは「外に」ということである。ラ(la)とは「そこに、そのもの」ということである。人間の外にいるやつというほどの意味だろう。

 これはたんに人間の外にいるのではない。人間の力を超えているということである。「人間はあいつのものであり、あいつの召使であり、あいつの食べ物である。あいつは意志の力だけでそれをやろうとしているのだ。われわれに災いが訪れる」と主人公は覚悟するのである。

 逆説的なことに、このオルラは本質的に外にいるのではなく、人間の内にいるということである。このオルラは、人間を襲って食べてしまうようなものではない。人間の内部に潜み、とり憑き、人間の意志を支配することで、人間を滅ぼそうとするのである。「あいつだ、あいつ、オルラがぼくにとり憑いて、こんな狂ったことを考えさせるのだ。あいつはぼくの中にいる。あいつがぼくの魂になっているのだ」。ということは、オルラは主人公そのものであるということである。自分の内部の分身となって、その影が主人公を殺そうとするのだ。

 そこで主人公は「あいつを殺してやる」と計画する。しかし自分のうちに住んでいるものをどうやって殺せるというのだろうか。それは自分を殺すことにならないだろうか。それでは『オルラ』の9回目をお読みたいただこう。

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「オルラの登場」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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