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小男の奇怪な生涯の物語

ホフマン「大晦日の夜の冒険」を読む(6)

2013年3月26日(火)

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影の訪問

 アンデルセンの『影』の続きを検討しておこう。学者は平穏な学問生活を送っていたが、ある晩に訪問客がある。学者にはそれが誰か分からない。影はこう自己紹介をする。「やっぱり思ったとおりでした。あなたはわたしのことが分からない! ちゃんと肉がついて、服も着て、やっとこれだけの身体になったのに。ま、こんな立派になった姿を見ようとは、思いもよらなかったんでしょうが、昔の影のことがお分かりにならないんでしょうか?」[1]

 影を失った学者に、やがて影が生えてきたように、影にもやがて身体が生えてきたのである。ただしまだ生え方は十分ではなく、影は極端にやせている。「そのやせぶりは気分を悪くさせるほど」[2]だった。それでも立派なみなりをしていて、ちゃらちゃらと時計やダイヤモンドの指輪をみせつける。

 そして影は自分が自立したことの代償を学者に支払いたいと申しでる。「あなたに別の影ができたのは、わたしも知っています。その影、もしくはあなたに、いくら支払わなければいけないでしょうか?」[3]。学者は「何の借金の話をしているだよ。もっと自由になりたまえ。ぼくは、お前の幸運を誰よりもよころんでいる」[4]と、金を受け取るのを拒む。そして影がどんな経験をしてきたかを知ろうとする。そもそも学者は向こうの家の様子が知りたくて、影を派遣したのだった。

影との契約

 しかし影は、向こうでこれから結婚する予定なので、この町の人々に、自分が影であることを明かさないでほしいと頼む。学者は「心配はいらないよ、お前の正体はだれにも明かさない。さ、握手だ。男の約束だ」と言うが、影は「影の約束です」[5]と言い直して、約束する。これが第二の契約であり、学者は自分の国で影の正体を明かさないことを約束する。

 ここまでは問題はないように見える。ここは学者の国であり、正体を隠さなければならないのは影のほうだからだ。問題なのは、学者が自分の仕事に不満をもっていることである。真理について、善について、美について著書をだしても、「だれも聞こうとしてくれないんで、絶望的になっている」[6]のである。数年して、影がまた訪問してくると、学者は不満をこぼす。すると影は学者に転地を勧める。そして影の国を訪問するように誘うのである。

 すると学者には、かつての欲望が蘇る。南の国で向かいの家にいたのは、「この世で一番美しい方、ポエジーさん」[7]であることを影に知らされていたからである。学者は退屈な学問生活をやめて、南の夢の世界を訪れたくなったのだった。すると影が提案する。「わたしの影になってくれるのなら、旅の費用は全額無料にしましょう」[8]。影は、学者が影のように見えると主張し、学者もまた自分が影のようだと感じていたのである。そして学者は影になる契約を結んでしまう。

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「小男の奇怪な生涯の物語」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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