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ジュリエッタへの愛の告白

ホフマン「大晦日の夜の冒険」を読む(8)

2013年4月9日(火)

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『プラークの大学生』の鏡像

 この類型では鏡像を失う場合と、日向での影を失う場合があることを指摘した。鏡像を失う契約として印象的なのが、『プラークの大学生』の場合だろう。これはドイツ表現主義の同名の映画で描かれたもので、それを小説化したものから引用しよう。

 プラークの大学生バルドゥインは、乗っていた馬車が暴走したために、命を失いかけた美しい伯爵令嬢を救い、すぐに彼女に恋をする。しかし彼女には男爵が婚約者となっているので、彼には手もでない。それでも彼女が好意を示してくれるので、思いきってスミレの小さな花束をもって訪問する。そこに男爵も彼女を訪問してくる。彼は華麗な薔薇の花束を彼女に渡す。バルドゥインは自分の貧弱な花束を恥じて、ポケットにねじこむのだった。

 帰宅すると、前から顔馴染みになっていた怪しい男スカピネッリが訪問してくる。そして金貨六〇万グルデンと交換に、「この部屋より氏の欲するものを持ち出す権利を与える」という契約書に署名しろと誘うのだった。彼の部屋にはろくなものはなかった。そこでバルドゥインは喜んでその契約書に署名する。彼はその前に男が部屋に入ってきて、「バルドゥインさん、あなたの肖像がいただきたいのですがね」とささやいていたこと、「いつももっていたいんですよ、あなたと生き写しのお姿をね、あなたの第二の自我を」[1]とささやいていたことを失念していたのである。

 この契約書に署名してもらうと、彼の部屋は金貨の山で埋まりそうになる。学生が男に、どうぞ好きなものをもっていってくれと言うと、男は精神統一して大きな鏡に映った彼の像に向かって、「歯ぎしりしながら一心不乱に念じつつ、息を吸い込み、手招きし、音もなく腕をぐるぐる回したり、指をよりあわせてたりしながら、呪縛の動作を行っていた。それから突然、信じられないほど強烈な歓びの表情がスカピネッリの顔に現れた。バルドゥインは立ちすくみ、彼の鏡像も立ちすくんでいた。しかし鏡像の目はもはや彼の目をみていなかった。向かいあっている鏡像の目は、急に彼を逸れてスカピネッリの方に注がれた」[2]

 そしてバルドゥインが身動きもできずに立ちすくんでいると、「それから鏡像はためらいながら足を踏み出してスカピネッリの方へ向かって動きだした。戦慄したバルドゥインは声もなく、数歩あとずさりした。だが鏡像は前進をつづけ、部屋を横切ってバルドゥインとスカピネッリにちかづいた」[3]のだった。

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「ジュリエッタへの愛の告白」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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