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ミソジニーと「独身者の機械」

アンドロイド/サイボーグ考~ピュグマリオンの欲望(2)ルソーの劇「ピュグマリオン」を読む(1)

2013年6月4日(火)

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ピュグマリオン幻想の特徴

 さて、前回はギリシア神話で描かれたピュグマリオンの物語について簡単に確認しておいた。この物語には、やがてピュグマリオン幻想として成熟していく一つの幻想の祖形が描かれている。その幻想の特徴は、以下のような八つの特徴としてまとめられるだろう。

 第一に注目されるのは、ピュグマリオンが乙女の像を彫り始めた動機が、女性嫌い(ミソジニー)にあるということである。ギリシア神話では、ピュグマリオンが住んでいたキュプロス島のアマトゥスの町には、「プロポイトスの娘たち」と呼ばれる女たちが暮らしていた。この女たちは、「なま意気にも、ウェヌスが神であることを否定した」[1]のだった。そして女神の怒りに触れることになる。「こうした彼女たちは、世界ではじめて、そのからだと美貌とをひさぐことになった」[2]という。

 要するに美貌の娘たちは、娼婦になったということである。ピュグマリオンは美しい顔と身体をもつ女たちが、「春をひさぐ」ようになったのを目撃した。そして「ほんらい女性の心に与えられている数多くの欠陥にうんざりして、妻をめとることなしに、独身生活を守っていた」[3]のである。

 第二の特徴は、このミソジニーの帰結として、ピュグマリオンが独身を守っていたことである。この幻想は、独身男性の幻想なのである。象牙で作った女性の像は、ミッシェル・カルージュの著書の魅力的なタイトルを借りれば、「独身者の機械」という性格をおびている。彼は乙女の裸身の像を「フェニキア産の紫貝で染めた褥(しとね)に横たわらせ、愛しい妻と呼んで、柔らかい羽根の枕に頸を乗せてやる」[4]のだった。後世のある作者は、「テュロス染のきれを張った寝椅子に彼女を寝かして、これは自分の妻だといっていました」[5]と表現している。ピュグマリオンはきっと、裸身の乙女像を寝ながら愛撫していたに違いない。乙女がどんな役割をはたしていたかは明らかだろう(この項、つづきます)。

ピュグマリオンの失意

 さて、これからお読みいただくジャン・ジャック・ルソーの劇「ピュグマリオン――音楽つきの劇」の場面は、彫刻家のピュグマリンオンの仕事場である。やりかけの仕事はいくつもあるが、つぎつぎと手を加えては、自分の枯渇した才能に絶望している様子である。

[1]オウィディウス『変身物語』。中村善也訳、岩波文庫、下巻、73ページ。
[2]同。
[3]同、73-74ページ。
[4]同、75ページ。
[5]ブルフィンチ『ギリシア・ローマ神話』野上弥生子訳、岩波文庫、上巻、89ページ。

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「ミソジニーと「独身者の機械」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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