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100歳現役サラリーマンを支えた「異端の経済学」

知る人ぞ知る19世紀フランスの経済学者、シスモンディ

2013年6月14日(金)

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 『100歳、ずっと必要とされる人』の著者、101歳の現役サラリーマンの福井福太郎さん。約80年前、慶應義塾大学経済学部をトップの成績で卒業、助手として学者の卵としての人生を歩み始めたが、間もなく始まった第二次世界大戦で戦地に赴いたことから学者としての夢を永遠に断たれることになったことは、前回までの連載で詳しくご紹介した。

 現在は「今の経済学は難しくて分からないんですよ」とにこにこしながら話す福太郎さんだが、たびたびこうも言う。「でもね、大学時代に勉強したことは、僕の人生の基礎になっているんです」。その時に学んだ「異端」の経済学者の思想が、福太郎さんのその後を支えてきたのだ。

 その異端の経済学者とは、19世紀に活躍したフランスの歴史学者兼経済学者、シモンド・ド・シスモンディだ。一般的にはほとんど無名の人物だが、経済史、経済思想史を学んだ人なら聞いたことがある名前のはずだ。専門家の間では恐慌論の研究者として名を残している。

 ためしにシスモンディに触れた複数の書籍や論文などをひもとくと、「アダム・スミスの『国富論』が欧州を席巻した後、高度成長を続ける英国が恐慌を繰り返し、働く人々をそのたび不幸に陥れるさまを見て、歴史上初めて市場主義に疑義を呈した」などとされる。

シスモンディ研究から深い影響

 前回の連載でご紹介したように、福井さんは、「ひと粒の麦もし死なずば」という言葉が好きで、利他の精神を生きる基礎としてきた。福井さんにこの言葉に象徴されるような「人のために生きる」という信念が根付いたのは、福井さんが卒業論文のために読み込んだ、19世紀の経済学者アルベール・アフタリオンによる「シスモンディ経済研究」を読んだ影響が大きいのだという。

 では、シスモンディの思想とは、どのようなものだったのか。

 歴史学者でもあったシスモンディは、事実を無視した抽象的すぎる議論を嫌ったという。1819年に出した『経済学新原理』という著書では、当時のリカードをはじめとするイギリスの「主流派経済学」を批判、経済発展の目的が「富の増大」にあるのではなく、人類の「幸福の増大」にあることを訴えた。

 そして資本家と労働者の間に収奪的な「支配関係」があることを批判し、両者は対等で、「互いに相手の利益を考えるべきだ」という考え方を根底に持っていたという。さらには資本主義のあり方として、潤沢な銀行資金を背景にした集約的な大量生産・大量供給より、14世紀以来欧州で発達したギルド制度を想定して、分散自立型の生産方式を進化させて、経済を成長させるべきだと説いていたようだ。

 筆者はある時、全文コピーしたフランス人経済学者アフタリオンによる、シスモンディ研究の論文を福井さんに見せた。福井さんが、大学の卒業論文執筆にあたり読んだ論文そのものである。福井さんの時代、海外の書物は高価で、福井さんは大学の図書館から借りて読んだという。筆者がフランス語で書かれたタイトルを指さし、これは、シモンド・ド・シスモンディの研究、ほどの意味でしょうかと聞くと、福井さんは「l'oeuvreは、作品、という意味だよね」といい、少し真面目な顔になった。いつもは「英語はまだ、分かるけれどね、フランス語は全部忘れちゃったよ」と笑う福太郎さんだが、忘れてなどいないのである。

コメント2件コメント/レビュー

2008年に起きたリーマンショックが今の資本主義のなれの果てというか、終焉の始まりなのかなという感じを持っています。 日本のみならず世界が「異次元の金融緩和」とかに踏み込んでもなかなかうまくまわらない。 資本主義の機能不全と見えるのです。「永遠に続く制度などない」というのは慧眼です。 また「人のために働く」からこそ「人から必要」とされるという簡単にして明瞭な事実はコロンブスの卵だなぁと感じました。(2013/06/14)

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「100歳現役サラリーマンを支えた「異端の経済学」」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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2008年に起きたリーマンショックが今の資本主義のなれの果てというか、終焉の始まりなのかなという感じを持っています。 日本のみならず世界が「異次元の金融緩和」とかに踏み込んでもなかなかうまくまわらない。 資本主義の機能不全と見えるのです。「永遠に続く制度などない」というのは慧眼です。 また「人のために働く」からこそ「人から必要」とされるという簡単にして明瞭な事実はコロンブスの卵だなぁと感じました。(2013/06/14)

 批判したレーニンの理論、実積が現実に根付いていない、消滅しているということは、シスモンデイの理論の正統性を裏付けるものとも思われる。それを研究された福井福太郎氏は先見性をお持ちであったと思われる。(2013/06/14)

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三品 和広 神戸大学教授