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自分が創造した女性像を呆然と眺めていた

アンドロイド/サイボーグ考~ピュグマリオンの欲望(3)ルソー「ピュグマリオン」を読む(2)

2013年6月11日(火)

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 ピュグマリオン幻想の第三の特徴は、ピュグマリオンが彫刻に巧みだったことである。現代であれば、愛玩すべき女性の身体を自分で彫刻しなくても、業者に注文することもできるし、3Dプリンターで作りだすこともできるだろう。しかし古代のギリシアにあっては、そしてルソーの時代にあっても、このような生きているかのごとき美しい女性像を創造するのは、きわめて卓越した腕をそなえた彫刻家でなければならない。ピュグマリオンは、自分が創造した女性像を、奇蹟的な傑作と考えていたはずである。彼はそれが自分が作った彫像とは信じられず、「呆然と像を眺め」[1]ていたのである。

 このような奇蹟的な創造は、彫刻家にみずからの手腕にたいする誇りを生むと同時に、その他の作品にたいする熱意の喪失をもたらすに違いない。そしてその熱意の喪失は、彼の手腕の低下をもたらすに違いない。ルソーの「ピュグマリオン」は、そうした状況にある彫刻家の矛盾した状態を描くことから始まるのである。

 なお、彫刻が人間になるピュグマリオンの物語は、彼が女性嫌い(ミソジニー)を抱く原因となった「プロポイトスの娘たち」の運命の裏返しであることに注意しよう。美貌を誇る娘たちは、身体を売って春をひさいでいながら、「恥じらいも失って、顔を赤らめることもなくなった。顔の血が凝固したからだ」[2]。羞恥心を失った女性は、もはや人間の女性としての資格を喪失したかのごとくである。「あとは、もうわずかなちがいだ。つぎには固い石に変わってしまった」[3]のである。ウェヌス(ヴィーナス)の呪いによって、娘たちは美貌と美しい身体のまま、石になってしまったのである。

 これにたいしてピュグマリオンが腕によりをかけて象牙の塊からつくりだした乙女は、生命を与えられたのだった。美貌と美しい身体をもつ象牙の像は、生ける乙女に変身し、美貌と美しい身体をもつ生けるプロポイトスの娘たちは、命のない固い石に変身する。象牙が人間の娘になり、「顔を赤らめ、おずおずと目をあげて」[4]ピュグマリオンを眺める。羞恥心を失い、「顔を赤らめることもなくなった」娘たちは、石像に変身するのである。


[1]オウィディウス『変身物語』中村善也訳、岩波文庫、下巻、74ページ。
[2]同、73ページ。
[3]同。
[4]同、77ページ。

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「自分が創造した女性像を呆然と眺めていた」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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