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2人の男のミソジニー

アンドロイド/サイボーグ考(7)~リラダン『未来のエヴァ』を読む(2)

2013年7月9日(火)

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エワルド卿の願い

 もちろんこのエワルド卿の嘆きは身勝手で一方的なものである。アリシアが理想的な身体と容貌と声の質をもっていた。そこでアリシアに恋に落ちたわけだが、相手の魂にどうしても我慢ができないという。

 この考え方の背後にあるのは、身体と精神がまったく別の次元で存在しているという考え方である。そして相手の女性の美しい肉体に、卑俗な魂が宿っていると考えて、絶望するのである。この考え方から、相手の身体に別の魂が宿っていればよかったというわがままな願いが生まれ、この願いが実現できないからという理由で、自殺しようとしたのである。

 というのもエワルドは、アリシアにそのような卑俗な魂が宿っていることに気づかぬままに深い仲になった。そしてこのことを確実につきとめた後には、「わたしはこの亡霊からふたたび解放されようとしました」という。しかしそれが不可能だったのである。エワルドの言葉を聞いてみよう。

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「美」の絆

 わたしは、「美」の絆がこれほどに手強く、陰鬱なものであることを、初めて認識したのです。わたしが自分の幻想に欺かれて、この情熱につき進んだときには、美に固有のこの力というものを知らなかったのです。そして最終的にわたしが幻想から目覚めて、この絆から解き放たれようとしたときには、その絆はまるで、拷問者が首を締めるために使う細い糸のように、わたしの肉に食い込んでいたのです。わたしが目覚めたときには、小人の国で目覚めたあのガリヴァーのように、無数の糸で縛られていたのでした。

 そしてわたしは自分が〈失われた〉と感じました。アリシアとの抱擁に熱くもえながら、わたしのエネルギーの力は弱まっていたのです。わたしが眠っているあいだに、[サムソンの頭髪を切ってその力を奪った]デリラが、わたしの頭髪を切り取ってしまったのです。疲れ果てたわたしは、つい妥協してしまいました。勇気をだしてあの肉体を見捨てるのではなく、相手の魂にヴェールをかけることを選んだのです。わたしは無口になりました。

 アリシアは、わたしがほんとうに彼女にたいして激怒していること、そしてこの怒りを飼い慣らし、血管の中で抑圧していることなど、まったく知りません。わたしは何度となく、彼女を殺して自分も死のうと思いました。しかし禁断の妥協が、空しい幻想がそれを妨げたのでした。そしてわたしはこの奇蹟のように美しい死せる肉体に屈服してしまったのです。ああ、なんということでしょう。ミス・アリシアは今では、習慣的にそこに存在するだけのものになってしまいました。そして彼女を愛することはまったく不可能だったのは、神に誓ってもいいほどです(『未来のエヴァ』第一巻第一六章)。

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「2人の男のミソジニー」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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