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エディソンの挑戦

アンドロイド/サイボーグ考(12)~リラダン『未来のエヴァ』を読む(7)

2013年8月13日(火)

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エディソンの約束

 そしてエディソンはエワルドにたいして、このアンドロイドの片腕のようなごく自然な肌と肉体をもった女性を創造することができること、しかもミス・アリシアとそっくりな身体をもち、しかも俗っぽい魂ではなく、高尚な魂をもった人造人間を創造して、それをエワルドに捧げることを約束するのである。この言葉にエワルドは呆然とする。

******

 この言葉を聴いたエワルド卿は、ほとんど狼狽した顔つきのまま、エディソンの前に立ちすくんでいた。提案されたことを理解したくないかのかようだった。
 しばらく呆然としていた。
 それから「しかし、そのような創造物は、感覚も知性もない、ただの人形にすぎないのでしょう」と叫んだ。何か言わなければならないと思ったからである。

 これにたいしてエディソンは、「エワルドさん、あなたがアリシアさんとその模造品を隣にならべてご覧になったとき、しかも二人が話す言葉をお聞きになったとき、生きているアリシアさんのほうを人形だと間違えないようにしていただきたいものですね。あなたが間違えるのは、確実なところだと思いますから」と答えた。

 まだいつもの自分を取り戻していなかったエワルドは、間の悪そうな礼儀正しさを保ちながら、苦い笑みを浮かべて、こう語っただけだった。
 「その話はやめておきましょう。考えるとぞっとします。あなたが創造されたものは、いつまでも機械らしさを拭えるはずがありません。なにしろ、あなたが人間の女性を創造できるわけがないのですから。あなたを見ていて思いますのは、天才というものは、なんと言うか……」

 エディソンは平然と相手の言葉を遮った。「わたしは誓ってもいいのです。あなたは初めのうちは、二人のどちらがどちらなのか、見分けることもできないでしょう。ふたたび申し上げますが、わたしはそのことをあなたに証明することすらできるのですよ」
 「ありえません、エディソンさん」
 「みたび誓いますが、あなたが実証的な証明をお望みでしたら、今すぐにでもご覧にいれましょう。事実として可能であるだけではなく、数学的にも確実なものであることを、一点一点にいたるまで、あらかじめ証明できるのです」

 「一人の女性とまったく同じものを再現できると言われるのですね。母親の腹から生まれた人間であるあなたが」
 「はるかに、本人に似ているのです、ご本人よりもですよ! ええ、確実にそうですとも。というのも、一日が経つと、人間の身体の線というものは変わらざるをえないものだからです。生理学が証明したところでは、ほぼ七年ごとに、人間の身体の原子はまったく新しいものになっているのです。はたして人間の身体というものは、確実に存在しているものなのでしょうか。はたしてわたしたちは、ほんとうにわたしたち自身と同じ存在なのでしょうか。アリシアさんもあなたもわたしも、一時間と二〇分経った後で、はたして今のわたしたちと同じ存在だと言えるのでしょうか。まったく同じ自分というのは、湖棲時代や穴居人時代の古めかしい偏見ではないでしょうか」

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「エディソンの挑戦」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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