• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

チャペック『ロボット』の帰結

アンドロイド/サイボーグ考(15)~リラダン『未来のエヴァ』を読む(10)

2013年9月3日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

ロボットと主奴論

 すでに考察したように、アンドロイドのエヴァとロボットは共通点と相違点をそなえている。エヴァの特異性を考えるために、今回はロボットの物語の帰結を考えてみよう。チャペックの『ロボット』では、人間の代わりに働く機械であるロボットを製作することで、労働と抑圧のないユートピアを実現することを試みた。しかしそのユートピアは実現しなかった。ロボットはいくつかの悲劇的な帰結を人間にもたらしたのである。

 ヘーゲルの『精神現象学』で描かれた主奴論では、生命を賭した者が主人となり、生命を失うことを恐れた者が奴隷となって、主人に仕えた。主人は奴隷に労働させ、自分は命令するだけの者となった。奴隷は命令されて主人のために労働し、自然に働きかけ、技術を習得した。しかし主人は命令するだけで、いかなる技術を習得することも拒んだ。やがて奴隷だけが生産をすることができるようになり、主人は奴隷に従属するようになった。奴隷が主人になり、主人が奴隷となったのである。

 チャペックの『ロボット』でも同じような帰結が描かれる。この物語はヘーゲルの主奴論を描いた物語でもある。人間はロボットに命令するだけで、生活できるようになった。人間は、人間と同じような存在であるロボットに労働させ、これを搾取し、抑圧し、武器をもたせて敵を殺戮する道具にして使った。

 この世界で労働して生産に携わるのはロボットだけである。人間は主奴論の主人のように、非生産的になった。「非生産性こそ、へレナ夫人、人間にとって最後の可能性になりつつあるのです」[1]。主人は労働しないことで生産性を失い、ロボットに従属するようになったのである。これが第一の帰結である。

実を結ばない花

 この非生産性は、たんに人間が労働するための技術を喪失したということではない。人間は自己を再生産することもできなくなったのである。「今週もまた一人の誕生すら報告されていません」[2]。女たちはただ、子供を生むことをやめたのである。

 それはどうしてだろうか。人間は贅沢で安楽な生活に慣れた。女性もそうした生活に慣れた、男性たちもそうした生活に慣れた。そしてもはや女性は子供を生むことをやめた。「もう人は生まれてこない。これは天罰です。これはまさに天罰です。主が女を人が生めない身体にしたのです」[3]

 これは神を無する人間の傲慢さにたいする天罰であるかもしれないが、それよりもむしろ、女たちにとって、無為な生活を送る男性たちの魅力が失われたからであり、無為な生活に慣れた女たちは、もはや出産という苦痛をうけいれるつもりはなくなったからである。


[1]チャペック『ロボット』前掲書、83ページ。
[2]同、77ページ。
[3]同、78ページ。

コメント0

「ウェブ読書会」のバックナンバー

一覧

「チャペック『ロボット』の帰結」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面倒くさいことを愚直に続ける努力こそが、 他社との差別化につながる。

羽鳥 由宇介 IDOM社長