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アンドロイドの嘆き

アンドロイド/サイボーグ考(24)~リラダン『未来のエヴァ』を読む(19)

2013年11月5日(火)

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 ハダリーはエワルドの冷笑に衝撃をうける。そして自分の生が閉ざされることを予感する。そしてハダリーはそのことを嘆き、万物に別れを告げるのである。

******

アンドロイドの嘆き

 アンドロイドはうなだれて、エワルドの言葉を聞いていた。両手で顔を隠し、声をださずに泣いていた。
 それから、しとどに涙に濡れたアリシアの気高い顔をあげて、こう語った。
 「そうなのですか。あなたはわたしを呼び起こしておいてから、追い返そうとなさるのですね。あなたのお気持ちただ一つで、わたしは生きることができたでしょうに。あなたは、あたかも世界を動かす力をもっているのに、そのことに気づかない王さまのように、その力を使おうとしないのです」

 「あなたはこ自分では俗っぽい意識を軽蔑しておきながら、そちらを選ばれるのですね。あなたはご自分の神聖さを前にして、後退りしておられるのです。理想に縛られて、怯えておられる。〈常識〉があなたを召喚しているのです。〈人間〉という種に囚われて、あなたは〈常識〉に屈して、わたしを壊してしまわれるのです」

 「創造主でありながら、みずから創造したものを信じることがてきず、あなたの作られた作品を仕上げる暇もなく、呼び覚ましたばかりの創造物を破壊してしまわれるのです。そして裏切り者であると同時に正統なものでもあるうぬぼれのうちに逃げ込まれ、薄笑いを浮かべながら、この影のような存在を哀れむのです」

 「しかしわたしが姿を借りたあの女性が〈生命〉をどんなに手軽に扱っているかを考えてみるならば、わたしがあの女性のために、自分の生命を断つことに、どんな意味があるでしょうか。わたしは女性として、男性が自分を恥じることなく愛することのできる女性になりえたでしょうに。そして老いるまで生きることができましたでしょうに」

 「神話の巨人族の一人であるプロメテウスが天から火を盗んで、それを恩知らずの人間たちに与えたのでしたが、火を手に入れる前のそんな人間と比べたなら、わたしの方がはるかに人間らしい存在ですのに。もしもわたしの火が消えましたならば、わたしを虚無から取り戻すことのできる人は誰一人としていないのです。この地上には、わたしに魂を吹き込むために、プロメテウスの肝をついばんだ永遠の禿鷹の嘴をものともしないような勇気のある人は、誰一人いないのです。ああ、海の精の女たちとともに、そのようなお方の胸にすがって泣くつもりで参りましたのに……。さあ、それではお別れです。わたしを追放なさるあなた」

別れの言葉

 こう語り終えるとハダリーは立ち上がった。それから深い溜め息をもらすと、一本の木の方に歩み寄り、片手をあげて幹に身を預けて、月の光に照らされた庭園を眺めた。
 呪文を唱える彼女の青白い顔が輝いた。

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「アンドロイドの嘆き」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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