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別れの儀式

アンドロイド/サイボーグ考(25)~リラダン『未来のエヴァ』を読む(20)

2013年11月12日(火)

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 さて、エディソンの賭が実現し、エワルドの賭も実現した。こうして物語は終結に向かうことになる。今や愛しあっているハダリーとエワルドは、ロンドンで愛の生活を送りことになる。しかしまだ片付けておくべき伏線が一つあった。ハダリーが化身したあのアリシアはどうなったのだろうか。アリシアは二人が庭園で語り合っている間に、催眠術から覚めてエディソンに別れの挨拶をしていたのである。エワルドにいくつか伝言を頼みながら。

 それから別れの儀式が始まる。ハダリーはみずからの創造主であるエディソンに別れを告げねばならない。ロンドンで新しい生活が始まるからである。そこでエディソンは、それまでハダリーを動かしていた装置を取り外す。これからはエワルドかその装置を操作するのである。そしてハダリーは棺に入る。この棺に入って、ハダリーはこれから太平洋を越えて、ロンドンに赴くのである。

******

ハダリーの棺

 エワルド卿はそのまま、よろめくハダリーのからだを抱きかかえながら、実験室へと戻っていった。ハダリーの気高く、青白い顔は、気を失ったように、青年の肩の上にもたれかかっていた。

 エディソンは立ったまま、腕を組んで二人を迎えた。彼の前には、細長い豪華な黒檀の棺が置かれていた。二枚の扉は大きく開かれていて、その内側は女性を一人収めることができるように抉られていた。どこも黒のサテンで覆われていた。

 これはエジプトの棺、クレオパトラの遺骸を収める墓にふさわしい棺だった。それを現代的に完璧なものに仕上げてあったのである。窪んだ内側の壁の左右には、一二本ほどの錫の細い帯が電気めっきを施して、配置されていた。まるで死者を弔う言葉を書き込んだパピルスのようだった。それから写本が一巻とガラスの棒などが備えられていた。

 エディソンは、巨大な発電機の輝く車輪に身をもたせかけながら、こちらに向かって歩んでくるエワルド卿をじっと眺めていた。
 アンドロイドがわれに返ったかのように身動き一つしないのを見て、エワルド卿はエディソンに語りかけた。「ハダリーは、神のような人だけが贈ってくれる素晴らしい贈物です。バグダッドの市場でも、コルドバの市場でも、このような女奴隷をカリフに贈呈したことはないでしょう。いかなる魔法使いでも、このような幻を呼び出したことはないでしょう。『千夜一夜物語』のシェラザードでも、物語の中でシャリヤール王の心に疑念を引き起こすのを恐れて、このような女性を想像のうちにでも思い描くことはなかったでしょう。いかなる財宝を積み上げたとて、このような傑作を買い取ることはできないでしょう。たしかに初めは、わたしも怒りの感情に負けてしまいましたが、やがて賛嘆の思いに圧倒されたのです」

 エディソンは「受け取っていただけますか」と尋ねた。
 「もしもお断りなどしたら、愚かさの極みというものでしょう」
 「これであなたへの借りは、お返ししましたよ」と、エディソンは重々しい口調で語りながら、両手を差し延べた。エワルド卿は両手で、しっかりと握りしめた。

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「別れの儀式」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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