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機械の生殖のメカニズム

アンドロイド/サイボーグ考(32)~バトラー『エレホン』を読む(6)

2014年1月7日(火)

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 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

 正月に、グレッグ・ベアというSF作家の『ブラッド・ミュージック』(小川 隆訳、早川書房)という小説を読みました。これは遺伝子操作によって、人間の身体を構成する数兆もの数の細胞がすべて知能をもつようになるという奇妙な物語です。連載中の『エレホン』とも関連するところがあり、その内容をご紹介することにします。

 『エレホン』の機械の書でも、人間の身体を一つの都市のように譬えるところがありました。たしかにぼくたちの身体は、無数の器官が協力しあい、それらの器官の間を伝達する神経や血管によって初めて機能する総合的な有機体です。もしもそれらの器官がすべて、そしてそれらの器官を構成する細胞がすべて知性をもつようになったらどうなるでしょうか。

 これには二つの意味があります。一つは〈わたし〉という主体の内部に、無数の主体が成立し始めるというミクロの次元の問題です。知性を持つということは、意識をもつということであり、意識をもつということは、みずからが主体であると考えるということです。この物語では、すべての細胞が同じように知性をもつのではなく、黙々と政体の機能を担う働きバチのような細胞もあれば、思考することに優れた細胞もあるとされています。そうした思考する細胞は、みずからが主体であると考えざるをえないでしょう。すると〈わたし〉のアイデンティティというものはどうなるでしょうか。

 それまで〈わたし〉であると考えていた部分は、他のさまざまな知性をもつ細胞の一つだということになります。そこでは階層的な錯誤が発生します。最高の審級であると考えられていた魂や心というものが、他のさまざまな細胞と同等な一つの細胞の働きとみなされるようになります。するとわたしのうちに無数のわたしが存在すことになります。どの知的な細胞も、〈わたし〉と主張する権利と資格がありうるのです。そこではアイデンティティは崩壊せざるをえないのです。

 第二の意味は、〈わたし〉は一人の孤立した〈わたし〉ではなくなるということです。この物語では、かつて人間であった存在は、その記憶を残しながら、さらに大きな〈幹〉のようなものに統合されていきます。そしてその統合された存在のうちで、人々の記憶と意識は融合し、さらに大きなものに成長します。マクロの次元で一つの巨大な〈意識〉や〈自我〉のようなものが成立しているのです。この巨大な自我のうちで人々の記憶が混じりあい、集合的な意識あるいは無意識のようなものが成立するのです。そこでは個々の人間の小さなアイデンティティは意味を失い、無数の人々の経験が蓄積され、統合されるのです。

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「機械の生殖のメカニズム」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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