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第24話「機械の写真も撮られてしまった。うかつだった」

2014年2月12日(水)

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伊豆

 「この家から出て行け」

 今西静子はあの時のことを片時も忘れたことはなかった。松村純三の罵声が耳の奥で聞こえてくるのだ。

 「誤解です」

 何度言っても、夫は聞き入れてくれなかった。それどころか、否定すればするほど、夫の猜疑心は増していった。

 「宇佐見と一緒になればいいだろう」

 当時、静子の夫だった松村純三は、東京に本社のある大手重電機メーカー「並河重工」の経理課長だった。日本が急成長に沸いていた時代だ。だが並河重工は近代化に遅れ、極度の経営不振に苦しんでいた。その時、ビジネスコンサルタントとして再生にかかわったのが、宇佐見だった。同じ年の松村と宇佐見はすぐに意気投合して、大胆なリストラを成功させ、並河重工を蘇らせた。

 松村は独身だった宇佐見をたびたび自宅に招いて、妻の手料理でもてなした。

 宇佐見は、国内だけでなく、アメリカ、東南アジア、ヨーロッパと文字通り世界を飛び回るエリートコンサルタントだった。

 妻の静子は、いつしかそんな宇佐見にあこがれ、土産話を心待ちにするようになった。

 「ルーブルの美術品の中で何が一番好きかと聞かれたら、惑うことなくニケと答えますね。胴と翼しかないのに、誰もが気品と優雅さを兼ね備えた美しい女神の姿を想像するんです」

 いつかルーブル美術館に行ってみたい。静子は本気でそう思った。だが、それが叶わぬ夢であることを静子は分かっていた。

 因習にがんじがらめの松村家に嫁いだことで、自分の時間を楽しむ自由は失われてしまったのだ。親に言われるままに一緒になった松村純三は、秀才で、誠実な男であった。だが、おもしろみも人間としての魅力も感じられなかった。静子に残された楽しみは、自由に想像を働かせることだけだったが、あの事件以来、想像する自由すらも夫によって奪われてしまった。

 そのきっかけはささいなことだった。ある日曜日、フランスから帰ったばかりの宇佐見が松村の自宅にやってきて、静子に土産を渡した。美味しい食事のお礼にと渡されたプレゼントは、シャネルの香水だった。

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「第24話「機械の写真も撮られてしまった。うかつだった」」の著者

林 總

林 總(はやし・あつむ)

公認会計士

外資系会計事務所、監査法人勤務を経て開業。国内外でビジネスコンサル、管理会計システム導入コンサルのほか、大学で実践管理会計の講義を行っている。また管理会計の草の根活動として、団達也会を主宰。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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牛島 信 弁護士