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乱歩賞作家がバブルを描く「おれたちなりの落とし前」

『カクメイ』/『彼女の家計簿』

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2014年3月26日(水)

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【私が編集した本読んで下さい!】

カクメイ』新野剛志著

担当:中央公論新社 文芸局 第二編集部 三浦由香子

 あなたは帰宅して、いつもの通りテレビの報道番組をつけるとします。キャスターの読み上げるニュースにふと注意がひきつけられる。

「テレビ局に届いた脅迫状…?」

 やがてキャスターは深刻な顔をして、その文面を読み上げ始める。その局の、あるお笑い番組の視聴率が「12%を超えたら無差別に人を殺す」。普段は20%以上が当たり前の国民的な人気番組。だが、放映を中止すれば、やはり誰かが殺される。

 もちろん、視聴者が……つまりテレビの前の「あなた」を含む日本の国民が、その番組を見なければ、視聴率は下がる。でも、本当に人が殺されるのだろうか? この脅迫は単なるいたずらではないのか? そもそも、犯人の目的はなんなのか?

 『カクメイ』はこんな脅迫事件をめぐるミステリーです。舞台はバブル期の日本。斬新な番組が次々と登場し、テレビがもっとも隆盛を誇ったといえる時代です。著者の新野剛志さんはまさにこの頃に青春を過ごしたバブル世代。ご自身がテレビっ子だったということもあって、満を持して挑んだ舞台でした。

華やかな空気の影で懊悩も深かった時代

 バブルといえば、ジュリアナ東京で踊り狂う人々、札束でタクシーをとめるサラリーマン……といった派手なエピソードばかりが語られますが、「じつはそうでもなかった」というのが新野さんの実感だそうです。庶民はそれなりに地味な生活だったし、もちろん貧困層も存在した。ただ、上向きの高揚した社会では、そうした人々に目が向けられることがほとんどなかった。周囲が明るく華やかだからこそ、そうした苦悩を負った人々の悩みは濃く、疎外感は強かったのではないか。

 バブル期に対してそんな思いを抱いていた新野さんは、この『カクメイ』で、交通遺児の若い男女を中心人物に据えました。それぞれ母子家庭であることのハンデを負わされ、将来に閉塞感を抱えています。都内有数の進学高校に通いながらも、母親の身勝手な借金で大学への道を断たれた修介。若い継母と血のつながらない弟妹たちを養わねばならない檜山(ひやま)。母親から、裕福な男と結婚するように刷り込まれている希美子。

 若くして人生に希望を持てない境遇に陥ってしまった彼らは、必死に日々を生きるよすがを求めます。お互いへの友情と、淡い恋。そして彼らは世間への憤懣を「カクメイ」という他愛のないゲームで解消するようになるのですが……この小さな遊びが、数年後のある悲劇を経て、冒頭の大胆な視聴率脅迫事件のきっかけとなっていくのです。

「カクメイ」にこめられたもうひとつの意味

 この「カクメイ」というタイトルにはもうひとつの意味がこめられています。それは、文字通りの「革命」。当時はすでに安保闘争も遠くなり、いわゆる過激派などの活動はかつてほど盛んではなくなっていました。しかし、ちょうどこのバブル期の後半、昭和天皇の即位60周年や東京サミットの開催を迎え、まるで昭和の終焉を彩るようにいくつものテロ活動や内ゲバ事件が起こっています。

 これに注目した新野さんは、集会を繰り返す活動家たちや、彼らを監視する公安の刑事をストーリーに登場させました。この刑事は物語の狂言まわしとして、終始不穏な存在感を放ちます。やがて視聴率脅迫事件の盛り上がりとともに、「カクメイ」という言葉に幾重にも絡められた伏線が衝撃のラストへと収束していく様子は、まさに圧巻としか言いようがありません。

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