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錬金術の夢

アンドロイド/サイボーグ考(37)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(1)

2014年2月18日(火)

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 これからしばらく、人間が生命をもたない存在から自分と同じような存在を造りだそうとするピュグマリオンの夢の現代版であるメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』の物語を読んでみたいと思います。ご存じのように、メアリーはイギリスの著名なロマン派の詩人であるパーシー・シェリーの妻です。両親に結婚を反対されて二人は駆け落ちをして、やがてバイロンの妻となる異母妹のクレア・クレアモントともにジュネーヴに滞在していました。一八一六年の夏のことです。

 ある夜、バイロンの「みんなで一つずつ怪談を書いてみよう」という提案に賛成して、この三人とバイロン、およびその主治医のポリドリの五人が幽霊物語を書くことになります。バイロンの物語は、作品『マゼッパ』の後書きのようにして出版されました。夫のシェリーは物語よりも詩の作品に心が動いていました。ポリドリは「頭を髑髏にされた女性」の物語を執筆します。これは後の吸血鬼物語の端緒となるものでした。邦訳は「バイロンの吸血鬼」として、佐藤春夫訳が『ゴシック名訳集成』(学習研究社)に掲載されています。メアリーの作品が、『フランケンシュタイン』として後世に残る名作となったのでした。このようにして、つれづれの一夜の思いつきが、人間が死んでもなお死なないドラキュラの物語と、人間でないものから人間を造りだすフランケンシュタイン の物語をうみだすきっかけとなったのです。

 時代は一八一五年のウィーン体制の直後です。ナポレオンの没落の後、フランス革命への高揚した感情は冷め、革命を支持したイギリスのロマン派の詩人たちは、革命のテロルの暴力への強い失望に捉えられていました。それだけではありません。メアリーは旧姓ウルストンクラフトでした。父親はウィリアム・ゴドウィン、母親はメアリ・ウルストンクラフトです。急進的な思想家だったゴドウィンは『政治的正義』などの著作があり、フランス革命の思想的な遺産をうけつぎながらも、政治的な制度を否定するアナキズム的な思想を抱いていました。母親のウルストンクラフトは『女性の権利の擁護』によって、フェミニズムの先進的な思想家でした。母親はメアリーを出産した直後に産褥で亡くなっています。メアリーの生は母親の死を代償としていたのです。

 このような両親のもとで、革命の後の失望の時代に生まれたメアリーが、フランス革命を支えた啓蒙の精神の遺産に両義的な姿勢を示すようになったのは理解できることでしょう。この物語もまた、そうした両義性に色濃く彩られています。物語はジュネーヴの資産家の一人息子として生まれたフランケンシュタインが自然科学に大きな関心をもつようになったことから語り始められます。フランケンシュタインの物語は、フランス革命と同時代か、それを少し過ぎた時代を想定して描かれています。

 場所はジュネーヴ。ルソーの革命の志が生きていた共和国です。幼い頃からヴィクター・フランケンシュタインは、貧しい農家から養子のようにしてもらい受けた魅力的な娘エリザベスと(貴族のみなし子とされています)、同じくジュネーヴの商人の息子である友人のクラーヴァルとともに楽しい少年時代を過ごします。そして自然科学に大きな関心をもつようになるのです。

 ただし彼が関心をもった自然科学は、両義的な意味をそなえています。まず最初に彼の関心をひいたのは、パラケルススの伝統をひく神秘的な錬金術の科学でした。錬金術は卑金属から金を作りだすことを目指す科学であり、生命の神秘を解明することを目指す学問でもありました。しかしフランス革命の精神でもあった啓蒙の精神は、こうした神秘的な科学を否定することによって成立していました。科学とは自然の秘密のヴェールを剥ぐ実験に依拠するものだと考えられていたのです。そのためフランケンシュタインは、この生命の神秘を説き明かすことを約束してくれる魅力的な学問と、現代的な科学とのせめぎあいのうちに戸惑うことになります。

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「錬金術の夢」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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