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電気の力への開眼と母の急死

アンドロイド/サイボーグ考(38)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(2)

2014年2月25日(火)

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ヴィクターの学問的な夢

 ヴィクター・フランケンシュタインの回想がつづきます。この一九一八年版では、父親が近代科学の手引きをしてくれるようになっています。一九三一年版では、父親の姿は消されて、「うちに来ていた自然科学の研究のある大家」が父親の代わりをつとめています。そしてヴィクターが数学と語学を学ぶことに多くの時間を費やしたことが語られています。 このようにヴィクターを導く父の姿が消えていることは、以下で述べるような家族の和合というイメージが否定されていることを示します。父親はたんに錬金術に否定的な人物として描かれるだけで、ヴィクターを導く役割は否定されているのです。和合する家族のイメージは、これからヴィクターが進む道にとって、ふさわしくないものと考え直されたたのでしょう。

 ギリシア語とラテン語の学習は、古代のギリシアとローマの文学を学ぶために役立つものでしたから、近代的な科学の学習とは方向性が異なるものでした。数学もまた自然科学とは別の領域の学問であるかのように語られています。ヴィクターの学習は、近代の啓蒙主義的な科学を学ぶのではなく、古代の自然科学の夢を、近代の科学で実現するという野望を実現する方向に向かうのです。そしてこれらの学問を学ぶことは、家族のうちに和合をもたらす役割をはたすものとして、一家のうちで歓迎されていたのです。

母の死

 しかしこのなごやかな一家に最初の不幸が訪れます。エリザベスが伝染病にかかり、看病していた母親がその病のための急死するのです。愛する母の死は、エリザベスのせいでもあり、母親の愛情の深さと軽率さのせいでもあります。これがヴィクターの一家を襲う死の嵐の最初の訪れでした。この母親の死を手始めとして、ヴィクターの近親者は、次々と死を迎えることになるのです。そしてメアリーの誕生が母の死と引き換えだったように、愛するエリザベスの病からの回復と引き換えのように、母の命が奪われるのです。

 なお、ブナの大木への落雷は、電気というものの力をヴィクターに衝撃的な形で教えることになりました。やがて彼は、この電気と科学の力が結びつくとき、新たな化学が誕生することを確信するようになるのです。この物語が書かれた一九世紀の初頭は、化学が学問として誕生する時期であり、同時に電気や磁気の力の不思議さが、人々の心をとらえた時期でもありました。

******

電気の力の発見と錬金術の退位

 わたしが一五歳になった頃のことでした。わたしたちの一家はベルリーヴの近くに転居していましたが、そこですさまじいまでの猛烈な雷雨を経験したのです。雷雲はジュラ山脈の向こうからやってきました。真っ暗になった天の四方から稲妻が光り、すさまじい音を立てて、雷が落ちたのです。嵐のあいだじゅう、わたしは雷の動きをわくわくしながら見守っていました。

 わたしは戸口に立って眺めていました。すると戸口から二〇メートルも離れていないところに生えていた古い立派なブナの樹が、突然に炎を放って燃え始めたのです。やがてそのまばゆいばかりの光が消えると、そこにはもはやブナの樹は影も形もありませんでした。ただ砕かれた株の根元が残っているだけでした。翌朝になってみんなで調べにゆくと、ブナの樹が奇妙な形で破壊されていたのが分かりました。落雷の衝撃で二つに引き裂かれたのではなく、細切れに裂かれていたのです。落雷でこれほど完璧に破壊されたものは、それまでに見たこともありませんでした。

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「電気の力への開眼と母の急死」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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