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生と死の境

アンドロイド/サイボーグ考(40)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(4)

2014年3月11日(火)

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 今回は、ヴィクター・フランケンシュタインが生命の源を発見したときの驚きと喜びの言葉を読んでみましょう。それまで明かすことはできないと思われていた生命の秘密をみいだしたことは、大きな喜びであると同時に、驚きでもありました。

 しかしヴィクターは、その秘密が同時に、彼とその家族に「破滅と避けがたい不幸」をもたらすことになることを身に染みて思い起こさずにはいられません。この知は不幸をもたらすものなのです。

 そして問題はその帰結だけではありません。自然科学的な知というものは、技術を伴って初めて実現されることが多いものです。生命の源についての叡智は、それを実現するために物質と技術を必要とするのです。それが人間の身体と、それを構成する技術です。

 ヴィクターはこの物質と技術のために、大きな苦労を強いられます。輝かしい叡智とは対照的に、闇の中で死と直面しながら、手を汚さなければならないのです。望みの気高さと実際に手を汚す営みの汚らわしさは、この生命の創造の営みに本質的にある矛盾をさし示しています。

 しかし野心に燃えたヴィクターは、そうした矛盾をものともせず、生命の創造へ、人間の創造へとつき進みます。ここでヴィクターは自分の試みが、たんに既存の人類の一人を造りだすのではなく、「新しい種」を創造するものであることを明確に自覚していることに注目しましょう。これから生まれるのは「人間ではなく、人間とは異なる新しい種」なのです。そしてヴィクターは、この新しい種から、創造主として、神として崇められることを期待します。旧約のヤーヴェと同じ地位に立つ、それがヴィクターの野望です。

 そしてヴィクターは、たんなる生命の創造だけではなく、死者の復活さえ、夢見ています。この死者の復活は、ここではごく手短に触れられているだけですが、メアリーが参加して幽霊物語の創作計画のうちで、医者のポリドリが初めて創造したヴァンパイヤーの悪夢につながる物語であることを確認しておきましょう。蘇った死者は、科学の輝かしい勝利を示すものであると同時に、生ける人間たちにとっては、安らかな死の安息を奪う悪夢となるものなのです。そしてこの死者の蘇生の夢が、どこかで早死にした母親を取り戻したいというメアリーの密かな夢とつながっているでしょう。

******

発見の喜び

 覚えていてくださると思いますが、わたしは狂人が抱くような夢について語っているのではないのです。わたしがこれからお話することは、今、天空で太陽が輝いているのと同じくらい確実なことなのです。たしかにある種の奇蹟が働いたのかもしれませんが、わたしがその秘密を発見した道筋は明瞭で妥当なものでした。わたしの日毎、夜毎の弛まぬ努力と疲労のおかげで、生殖と生命の原因を解明することができたのです。それだけではありません。生命のない物質に命を与えることすらできるようになったのです。

 これを発見した当初はわたしはただ驚くばかりでしたが、やがて強い喜びが、歓喜が訪れました。つらい労働にあれほど長い時間を費やした後に、わたしの望みが一挙に実現されたのですから、わたしの労苦がもっとも嬉しい形で報われたのです。

 そしてこの発見があまりに偉大で圧倒的なものだっただけに、それまで一歩一歩と踏み固めてきたわたしの苦労の道程もすべて跡形もなく消え失せ、わたしはただその成果をみつめるだけでした。この世界が誕生してからというもの、最高の賢者たちが望み、そのために研究してきたものか、今ではわたしの手中にあったのです。

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「生と死の境」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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