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怪物の誕生

アンドロイド/サイボーグ考(41)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(5)

2014年3月18日(火)

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生命の創造の秘密

 さていよいよヴィクターによる生命の創造のシーンにやってきました。このシーンと彼の創造の営みには、いくつもの顕著な特徴があります。それを順に考えてみましょう。まず第一に、彼は自分の創造の秘密を、語り手にも読者にも明かさないということです。それが魔法のようなものではないことは語られていますが、それがどうして機能するかは語られません。

 もちろん作者のメアリーにだって、そのような秘密は語りえないのですから、これは当然のことです。しかし当然ではありますが、ある意味では物語の必然として、そうなっていることは確認しておく必要があるでしょう。その理由としては主に次の二つのことを考えてみることができます。

 まずヴィクターの学んだ学問は、錬金術と近代科学の合体という奇妙な学問だったことです。近代科学の物語であれば、その秘密は学問的に明かされる必要があります。そしてSTAP細胞の発見のときのように、それが他の人々の試行によって再現される必要があります。再現可能性のないものは、錬金術のような物語なのです。しかしヴィクターの発見した秘密は、錬金術の系統を引くものとして、こうした公開性を拒むものなのです(少なくとも、作者はそのように伏線を引いています)。「賢者の石」は秘すべき叡智なのです。

 さらに重要なのは、この発見がヴィクターに与えた代価の大きさです。この秘密を知ることは、神の領域に立ち入ることであり、神を恐れぬ人間の傲慢な営みとして、神に罰せられるのです。この手紙の宛先である人物も読者も、このような秘密は知るべきではないのです。人々の幸福のためにも、この秘密は闇のうちに葬られるべきものなのです。

創造のもたらす不幸

 第二の特徴は、この発見はヴィクターにとって念願が成就したものであり、その瞬間は至福の瞬間であるはずなのに、その幸福は一瞬たりとも訪れないということです。これはいかにも皮肉なことです。「わたしが限りない苦心と配慮の果てに創造した」この生き物の創造の瞬間は、創造者にとっては幸福ではなく破滅を、災いをもたらすものとされているのです。それは彼に「破滅の迫った瞬間」なのです。

 ヴィクターはそのことを「しかし今やその願いが実現されてみると、美しい夢は霧散してしまいました。わたしの心を占めているのは、ただ息をつくこともできないほどの恐怖心と嫌悪感だったのです」と表現しています。自分の願いが実現することが、恐怖と嫌悪をもたらすものであることを、あたかもヴィクターは予感していたかのようです。

被造物の不幸

 第三の特徴は、ヴィクターの創造した生物は、創造主が美しいものに造ろうとして苦心していたにもかかわらず、醜悪なものとして誕生したということです。これはフランケンシュタインの神話がピュグマリオンの神話と明確に異なるところです。創造されたものは美によってではなく、美の反対の極致によって、恐怖をもたらす醜悪さによって彩られているのです。

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「怪物の誕生」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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