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怪物の「表の物語」と「裏の物語」

アンドロイド/サイボーグ考(42)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(6)

2014年3月25日(火)

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 このように創造主たるヴィクター・フランケンシュタインは怪物から逃れて、惨めな一夜を過ごします。そして夜が明けて自宅に戻ると、怪物は姿を消していました。ヴィクターは悪夢から解放されたと喜びました。しかしそれはぬか喜びだったのです。

 そもそもすでに考察してきましたように、怪物を創造したヴィクターは、自分が創造した者が捧げる笑みと愛情の表現を受けいれことを拒みました。怪物は自分が神に嫌われていることを知らされたのです。こうして怪物は創造主に復讐するという地獄の道を歩み始めることになります、少なくも、この物語の表の筋をたどるかぎりでは。ヴィクターにとってのその夜の結末をまず読んでみましょう。

******

恐怖の一夜

 ああ、あの恐ろしい顔つきを直視する恐怖に耐えることができる人は、だれ一人としていないでしょう。たとえミイラに再び命が与えられたとしても、あいつほどに忌まわしいものではないでしょう。わたしが完成する前から、わたしはあいつをずっと見ていました。その頃からすでに醜い存在だったのです。しかしあいつの筋肉と神経に動く力が与えられた後は、[地獄を描いた]ダンテですら想像もできないほどのものになったのです。

 わたしはこうしてその夜を惨めな思いで過ごしました。ときにはわたしの心臓の鼓動が速く、激しくなりました。わたしの身体のすべての動脈が脈打っているのが分かりました。あるときには極度の疲労と衰弱で、地面に倒れそうになりました。この恐怖と混じりあうように、幻滅の苦さを味わいました。生命を創造することは、長い間のわたしの生きる糧であり、希望の綱でもありました。その夢が今やわたしの地獄になったのです。その激変はきわめて迅速に起こり、その逆転はきわめて完璧なものでした。

あてのない彷徨

 やっと陰鬱でじめじめとした夜が明け初め、眠りの足りないためにずきずきするわたしの眼にも、インゴルシュタットの教会がうっすらと見えてきました。白い尖塔の時計は、朝の六時であることを示していました。夜の間、わたしの避難所となっていた前庭の門を、門衛が開き、わたしは街に出てゆきました。しかし街角を曲がるたびに、そこからあの忌まわしいやつが顔を出すのではないかと恐れて、逃げるように足早に歩いてゆきました。自分が住んでいた部屋に戻る勇気はありませんでした。それでも誰かにせき立てられるかのように、急いで歩みつづけました。暗く、慰めのない空から降ってくる雨にびしょぬれになりながら。

 しばらくそうして歩きつづけていました。身体を動かせば、少しは心にのしかかる重荷を軽くできるのではないかと考えたからです。自分がどこを歩いているのか、何をしているのかも意識せずに、ただいくつもの街路をさまよいつづけました。わたしの心臓は、恐怖の病のうちにどきどきと高鳴りました。自分の周りを見回す勇気もなく、ただ乱れた足取りで、歩きつづけるだけでした。

  寂しき道を、恐れと惨めな思いに駆られて歩む人のごとく、
  たびたび背後を振り向きながらも
  もはや顔を向けることもなしに。
  恐るべき友が
  背後に迫り来るのを知るがゆえに

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「怪物の「表の物語」と「裏の物語」」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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