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怪物の自己認識の経験の端緒

アンドロイド/サイボーグ考(43)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(7)

2014年4月1日(火)

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怪物の告白

 フランケンシュタインが故郷に戻ったときは、すでにジュスティーヌも処刑され、一家は弟のウィリアムとジュスティーヌを失った悲嘆に暮れていました。ヴィクターは、二人の死の間接的な責任が、怪物を創造した自分にあることを責めます。そして良心の責め苦に苦しみながら、野山をさすらうのです。

 そこに怪物が登場します。ヴィクターは当然ながら激怒し、相手を呪います。しかし怪物は、ヴィクターが創造主であること、二人の死の責任はヴィクターにもあることを指摘します。そして創造された後の自分の苦労の物語を聞いてくれと頼みます。そしてその後でなら、殺すなり、好きにしてくれと言うのです。こうして、怪物の物語が始まります。人間の恣意によって創造された被造物が、孤立無縁なままに、言葉を覚え、語ることができるようになった自己認識の経緯を語る物語です。

怪物の自己保存本能

 まず怪物が感じたのは、寒さでした。コンディヤックの石像には、最初に嗅覚が与えられました。嗅覚はもっとも動物的なものであり、基本的なものと考えられていたからでしょう。そして石像は最初は自分の匂いを嗅ぐことができるだけです。石像は完全に孤立したものとして想定されているので、自分の匂いを嗅ぐことで、自己のアイデンティティを確立するものと考えられていたのでしょう。自分の匂いを嗅ぎ、自分の身体についての意識をもつ石像のイメージは、きわめてナルシシズム的で、自己完結的です。

 これにたいして、ヴィクターによって創造された怪物を最初に襲ったのは、寒さという感覚でした。そして怪物はそこにあった衣服を身にまとったのです。これはこの被造物が最初に感じたのは、自己保存本能であったこと、身体の熱を失わないという心得だったことを示しています。

 次に怪物が覚えたのは、さまざまな感覚の多様な集まりです。「わたしは物を見たし、何かを感じたし、音を聞いたし、匂いを嗅いだ。そうではあるが、こうしたさまざまな感覚の働きを区別できるようになるまでには、長い時間がかかった」と回顧しているとおりです。これはごく納得できる成り行きです。身体の五感のすべてが動きだしているのですが、それが何であるのかを理解するのは、最初は困難であったのです。

 そのうちでも怪物の感覚を強く刺激したのが太陽の光であり、視覚がまずこの生き物を導くことなります。この視覚に導かれて、怪物は飢えと渇きという自己保存本能を満たすことができるようになります。

 怪物にとって視覚の大きな刺激となったのが、見つめることができないほどの強い光を出す太陽ではなく、月であったとされていることも興味深い点です。怪物はこの天体を最初は名指すことができず、さまざまな名前で呼んでいます。「あるひかり輝くもの」とか「夜の天体」などです(ただし途中で作者は月という名詞を使っています。この怪物の語りの時点ではすでに怪物は月という名詞を知っているわけですから、不自然ではありません)。

五感の区別

 次に怪物は野鳥を発見して、「飛ぶ物」という視覚の対象と、「心地好い音を響かせてくれる」ものという聴覚の対象が、同一の物であることを認識します。これは視覚の対象が聴覚の対象と一致するという経験であり、それをきっかけとして怪物の自分の五感を区別するようになります。

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「怪物の自己認識の経験の端緒」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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