• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

スミスを「純粋な資本主義」の擁護者とみなすのは誤り

アダム・スミスが説く「共感」の哲学(2)

  • アマルティア・セン

バックナンバー

2014年4月30日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 アマルティア・セン・ハーバード大学教授のアダム・スミス論の2回目。センは、アダム・スミスが、利益のみに基づく市場メカニズムを礼賛してはいない、と力説する。

(1回目はこちら→「経済は「利己心」だけで動くのではない アダム・スミスが説く「共感」の哲学(1)

経済学と利益追求の制限

 スミスは、広くは経済のシステム、狭くは市場の機能が利己心以外の動機にいかに大きく依存するかを論じている。スミスの主張は大きく2つに分けられる。第1は認識論的な主張で、人間は自己の利益にのみ導かれるのではないし、思慮にのみ導かれるものでもないという事実に基づいている。

 第2は現実的な主張で、剥き出しの利己心にせよ世慣れた思慮にせよ、いずれも自己の利益に資するものだが、倫理的あるいは実際的に考えれば、それ以外の動機に促される理由は十分にあるとする。事実、スミスは「思慮」を「自分にとって最も役立つ徳」とみなす一方で、「他人にとってたいへん有用なのは、慈悲、正義、寛容、公共心といった資質」だと述べている。これら2点をはっきりと主張しているにもかかわらず、残念ながら現代の経済学の大半は、スミスの解釈においてどちらも正しく理解していない。

 最近の経済危機の性質を見ると、まっとうな社会をつくるには、野放図な自己利益の追求をやめる必要があることははっきりしている。2008年にアメリカ大統領候補に選ばれた共和党のジョン・マケインでさえ、選挙演説の中で「ウォール街の強欲」をたびたび非難した。スミスはこうした傾向を認識しており、利益を追い求めて過剰なリスクを仕掛ける連中を「浪費家と謀略家」と名付けた。

 ちなみにこの呼称は、最近のクレジット・スワップやサブプライムローンを仕組んだ手合いの多くにじつによく当てはまる。スミスが使った謀略家(projector)という言葉は、本来の「計画立案者」という意味ではなく、1616年頃から一般的だった軽蔑的な意味合いで使われており、ザ・ショーター・オックスフォード英語辞典によると「バブル会社の仕掛人、投機家、詐欺師」といった意味がある。

 『国富論』より50年早い1726年に出版されたジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』には「謀略家」の姿が辛辣に描かれており、スミスが念頭においていたものにごく近い。規制がいっさいない市場経済に完全に依存するなら、スミスの悲惨な予想を的中させることになろう。スミスは「国内の資本のうちかなりの部分」が「利益を生む有利な用途に使うとみられる人には貸し出されなくなり、浪費し破壊する可能性がとくに高い人に貸し出されることになる」と書いているのである。

 規制のない市場経済に対するスミスの批判は、さっそく反論を受けた。ジェレミー・ベンサムが1787年3月に長い手紙を書き、市場は放っておくべきだとスミスを叱ったことは、歴史としてなかなか興味深い出来事である。

 手っ取り早く儲けようとあれこれ画策する「謀略家」とスミスが決めつけた手合いは、変革と進歩を担う革新者であり先駆者だとベンサムは主張した。スミスは批判に上機嫌に応じている。謀略家と革新者のちがいぐらいスミスもよくわきまえており、ベンサムの期待もむなしく、規制の必要性に関する自分の主張を修正しようと考えた形跡は見当たらない。

コメント0

「アマルティア・センが読む『道徳感情論』」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

意外なことに、伝統的な観光地が 訪日客の誘致に失敗するケースも 少なからず存在する。

高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員