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グローバル時代に有効な「中立な観察者」の視点

アダム・スミスが説く「共感」の哲学(3)

  • アマルティア・セン

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2014年5月7日(水)

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 アマルティア・セン教授の連載3回目は、「共感」と並んでアダム・スミス『道徳感情論』 を支える重要な概念である「中立な観察者」の今日的意義を解説する。

政治哲学と正義

 続いて道徳哲学から政治哲学に話を移そう。とはいえ両者は密接な関係があるし、とりわけスミスの分析においてはそう言える。まずは『道徳感情論』に見られる一種の正義論を取り上げ、次にこの数世紀の間に登場した主な正義論に照らして、スミスの主張を検討することにしたい。

 啓蒙運動の急進的思想と関連づけられる主な哲学者の間では、正義に関する学説に2つの大きな流れが認められる。第1は、「社会契約」に基づくアプローチである。その先鞭をつけたのが17世紀のトマス・ホッブスで、さまざまな形でこれに続いたのが、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソー、イマヌエル・カントといった偉大な思想家たちだった。

 このアプローチは、基本的には社会にとって「正しい」制度のあり方を模索するもので、そうした正しい制度は、それにふさわしい(仮想の)契約に結びつくとする。そこで、人々が適切にふるまえば制度は全面的に効果を発揮できるはずだという期待の下で、制度上の必要から正義が求められることになる。

 このアプローチには2つの特徴がある。1つは、正義と不正義の相対的な比較ではなく、完全な正義と定義したものに焦点を合わせていることだ。つまり、あるものは別のものに比べて「より正しい」と判断するための基準を探すのではなく、正義の点から「これを超えるものはない」という社会の特徴を特定して「正義」というものの本質を突き止めようとする。

 もう1つは、完璧を期そうとするがために超越論的(理想主義的)な制度尊重主義となり、制度を正しいものにすることが最重視されて、最終的に出現する社会には間接的な注意しか払われていないことである。だがどのような制度の組み合わせから生まれる社会であれ、その性質は、言うまでもなく制度以外の多くの要素に左右される。たとえば人々の実際の行動やその社会的な相互作用などだ。このアプローチでは、制度がもたらす社会的結果を考察する際に、人々は選ばれた制度が適切に機能するのにまさに必要とされる行動をとるとの前提を置く。

 一方、他の啓蒙思想家の多くは比較によるアプローチを採用している。このアプローチでは、主として現在の世界で特定可能な不正義を取り除くことに注意を注ぐ。奴隷制、官僚主義が誘発する貧困、残酷で非生産的な刑法、頻発する労働搾取、女性の隷従などがこれに当たる。このアプローチで取り上げるのは、人々の生活に現実に起きていることであり、判断は比較に基づいて行われる。

 たとえば、奴隷制が廃止されたら世界はどのようによくなるだろうかと考えるわけだ。言うなれば実現志向の比較に基づくアプローチであり、スミスはその最も強力な支持者であったが、スミスのみならず、コンドルセ侯爵(社会的選択理論に確率論を導入したことで知られる18世紀フランスの数学者・思想家で、スミスから多大な影響を受けた)、ジェレミー・ベンサム、メアリ・ウルストンクラフト(『女性の権利の擁護』を著した18世紀イギリスの社会思想家)、カール・マルクス、ジョン・スチュアート・ミルもこのアプローチを採用していた。これらの思想家はすべてスミスを高く評価し、大なり小なりあきらかな影響を受けている。

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