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怪物の自己教育

アンドロイド/サイボーグ考(47)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(11)

2014年5月13日(火)

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アラビア娘の登場

 これまでこの生き物がどのようにしてわずかな言葉を学び、となりの一家の人々に憧れ、彼らを愛してきたかを読んできました。ルソーの野生人のように、智恵はなくても心の清い無辜の者として育ってきたのでした。その心には、一つの大きな傷がありました。自分が誰であり、どうして生まれたのかが分からないし、どうして他の人々と比較して、これほど醜いのかも分からないということでした。

 この生き物がもつこの秘密は解明しようのないもの、解くことのできない謎のように思われました。しかしある事件がきっかけとなって、思わぬ道筋から、その謎が解明されます。その事件とは、隣の家を妙齢の娘が訪れてきたことです。この娘はやがて異国のアラビア娘であり、若者のフェリクックスを訪ねてきた許嫁であることが分かります。そしてこの娘は、人々の言葉を理解することができなかったのです。作者はその情景を次のように描いています。

******

会話のレッスン

 「わたしがすぐに気づいたのは、この見知らぬ訪問者は、はっきりと分節された言葉を話すものの、ほかの人々とは異なる言語を話すらしいということだった。彼女は、小屋に住む人々の語ることを理解できないだけではなく、自分の語ることを理解してもらうこともできないようだった。彼らはわたしには理解できないさまざまな仕草をしてみせた。ただし彼女の存在が、小屋のうちに喜びを撒き散らしていること、朝日の光が霧を追い払うように、彼女の存在が彼らの悲しみを追い払ってしまったことは、すぐに理解できた」

 「やがて彼らは同じ音を何度も繰り返して発音し、この家を訪れた娘がそれにならって発音しているのを聞いて、わたしは彼女が小屋に住む人々の言語を学ぼうとしていることに気づいた。そこでわたしは、この機会を利用して、自分も彼らの言語を学ぼうとすぐに考えた。最初のレッスンで、娘は二〇ほどの言葉を覚えた。その多くはわたしがすでに学んで知っていたものだったが、知らない言葉も学べたのはうれしかった」

******

隣家の事情

 異国の、言葉を知らない娘が突然にやってきて、その娘に会話のレッスンが与えられるというのは、いかにも唐突で、都合のよい話しではありますが、このアラビア娘はたんにレッスンの素材として登場したわけではありません。この一家の素性と、つましい生活の理由を明らかにするものでもあったのです。

 わたしたちはインゴルシュタットの近く、すなわちドイツにいることを思い出してみましょう。当然、村の人々はドイツ語を話しているはずです。しかしこの生き物が学んだのはドイツ語ではなかったのです。それはフランス語でした。それはどうしてでしょうか。それはこの一家が、わずか数か月前に、フランスから逃亡してきた人々だったからです。その理由もまたこのアラビア娘にかかわりがありました。

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「怪物の自己教育」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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手嶋 龍一 作家・ジャーナリスト