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あらゆる偏見と差別に立ち向かったグローバルな宣言書

アダム・スミスが説く「共感」の哲学(4)

  • アマルティア・セン

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2014年5月14日(水)

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 「生涯の大半をスコットランドの小さな海辺の町でひっそりと暮らした250年も前の人」であるアダム・スミスが、なぜ今日にも通じる卓越した先見性を持てたのか。アマルティア・セン教授の連載最終回は、スミス思想の偉大さに迫る。

1回目→「経済は「利己心」だけで動くのではない

2回目→「スミスを「純粋な資本主義」の擁護者とみなすのは誤り

3回目→「グローバル時代に有効な「中立な観察者」の視点

傾向、包含性、平等

 序文の締めくくりとして、スミス個人の感情に触れておきたい。ここまではスミスの傾向や性質には言及せず、おおむね論理面のみを取り上げてきた。これには理由がある。先ほども引用したが、「正邪に関する最も確実な判断が原則や観念に縛られ、その原則や観念は理性が帰納によって導き出した」と書いたスミスの論理的な正しさに私は賛同するからだ。

 しかしその一方で、スミスは非常な説得力をもって、何が正しく何が誤りかの「最初の知覚」は「直接的な感情と感覚の対象であって、理性の対象とはなり得ない」とも主張している。最初の知覚がきびしい吟味を経て変わることはあるとしても(スミスもそれは認めている)、やはり性質や感情の傾向について興味深い手がかりを与えてくれる。

 スミスの性格で私が驚かされた特徴の一つは、できる限り包含的であろうとし、ローカルでなくグローバルに考えようとする傾向である。スミスとて、近くの人にとくに義理を感じることは認めているけれども、関心の対象は究極的にはその範囲を超えなければならないと考えていた。

 スミスの道徳や政治に対する姿勢がきわめて包括的でグローバルな性格を備えていることは、すでに論じたとおりであるが、ここではさらに、スミスの倫理面の包括性が、あらゆる人間は基本的に似通っていると見る傾向とよく調和していることを付け加えておきたい。

 スミスが階級、ジェンダー、人種、国籍の壁を軽々と飛び越えて人間の潜在能力は等しいとみなし、天与の才能や能力に本質的な差異を認めなかったことは注目に値する。人間の能力は平等に与えられているというスミスの経験的な確信がじつに明快に述べられているのは、『国富論』の次の一節である。

 個人ごとの天分の違いは実際には、考えられているよりはるかに小さい。成人に達した人をみると、職業によって天分に大きな違いがあるように思えるが、これはたいていの場合、分業をもたらす原因というより、分業の結果である。たとえば、仕事の性格がまったく違うと思える学者と荷かつぎ労働者の差は、生まれつきの天分よりも習慣や教育の違いによるものだと思える。生まれたときから6歳から8歳までの間はおそらくほとんど差がなく、両親も友だちもとくに大きな違いがあるとは感じない。

 なるほどスミスが強調した経験に基づく見方は、同じ人種、国籍、階級に属す個人の間にも遺伝的なちがいがあるという科学的な証拠に反している。そう指摘するのはやさしいが、しかしスミスの主張が正しいかどうかはさほど重要ではない。ここで重要なのは、スミスが一般化した認識は、彼が信じたがっていたことだけでなく、これこそが正しい前提だと考えていたことが反映されている点である。

 それは、あらかじめ遺伝的な相違がわかっている集団でない限り、集団間の差異は教育と機会のちがいに由来するのであって、天与の才能のちがいではないという前提だった。

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