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人間という種族との永遠の戦い

アンドロイド/サイボーグ考(50)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(14)

2014年6月3日(火)

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運命の一瞬

 このように、この無垢で無辜の生き物は、自分の愛する人々に、自分の愛を告げる瞬間を迎えたのです。相手の老人は、「そのお友だちの名前と住所を教えていただけるかな」と尋ねてくれたのです。できれば力になろうという好意からでした。その好意にすがって、その好意だけを頼りに、この生き物はこの家を訪ねてきたのです。

******

 わたしは一瞬だけ、口をつぐんだ。そしてこの一瞬で決まることになると、心のうちでつぶやいた。わたしから幸福が永久に奪われるか、それとも与えられるかが決まる一瞬となる。老人に答えようとして、心を強くもとうと努力したのだが、その努力がこれまでにわたしに残っていたすべての力を粉々にしてしまった。わたしは椅子にくずおれて、声をあげて泣きすすり泣き始めた。

 その瞬間に、わたしの若い保護者たちの声が聞こえた。もはや一瞬の猶予もならなかった。そして老人の腕をつかんで叫んだ。「ときが来ました。どうか守ってください。わたしが訪ねてきた友人たちというのは、あなたとあなたがたのご一家なのです。この試練の瞬間に、どうかわたしを見捨てないでください!」

 「何ということだ!」と老人は叫んだ。「あなたはいったいどなたなのです?」

 その瞬間に家のドアが開き、フェリックス、サフィー、アガサが姿をみせた。彼らがわたしを眼にしたときのその驚きと恐怖を、いったいどうやって表現できるだろうか。アガサはその場で気絶した。サフィーは友のアガサを介抱するどころか、家の外に飛び出して逃げた。フェリックスは突進してきて、老人の膝にしがみついているわたしを人間の力とも思えぬ力で引き離した。彼は激怒して、わたしを床に投げつけ、棒で荒々しくわたしを殴った。

 わたしはやろうと思えば、ライオンがカモシカを引き裂くように、彼の四肢をひきちぎることもできただろう。しかしわたしの心は重い病にかかったかのように深く沈みこんでいたので、わたしは何もしなかった。しかし彼がまたもや棒でわたしを打ち据えようとしているのを見て、苦痛と苦悩に駆られて家を飛び出した。そして混乱を利用して誰にも気付かれずに、自分の小屋に戻った。

******

復讐の一念

 こうしてこの生き物の一生の賭けは、空しくついえます。そしてその希望の残骸の中から、激しい復讐の念が沸き立ってきます。無垢で無辜な生き物が、怪物へと変身する瞬間です。

******

 「ああ、呪わしい、呪わしい創造主よ! わたしはなぜ生きのびたのだろうか。あの瞬間にわたしはなぜ、創造主が愚かしくもわたしに与えた生命の火花を、その場で消してしまわなかったのだろうか。どうしてなのか、わたしにも分からない。まだわたしの心がほんとうの絶望に捉えられていなかったためだろう。むしろわたしの心は怒りに燃え、復讐を望んでいたのだろう。わたしはあの家を破壊し、家に住む人々をすべて殺してしまえたら、そして彼らの悲鳴と苦しみを我が身でじっくりと味わえたら、どんなにいいだろうと思っていたのだ。

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「人間という種族との永遠の戦い」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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