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フランケンシュタイン・コンプレックス

アンドロイド/サイボーグ考(52)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(16)

2014年6月17日(火)

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フランケンシュタイン・コンプレックス

 さて、ヴィクターからみたウィリアム殺しは、このように人間の心をもたない怪物の仕業ということになります。ヴィクターは、自分の科学的な才能にうぬぼれて、新たな生物を創造したのです。そうはいっても、ゼロから創造したわけではなく、ただ人間という生き物のさまざまな器官を集めて、それらの統一体に生命を与えることができただけです。これは神のように何もないところから創造したわけではないのです。

 それにしてもヴィクターが怪物を「創造した」のはたしかです。そしてこの怪物は、創造主の力を超えて、サタンのごとき悪をなす存在になってしまったと、彼には思えたのでした。その思い込みは後にフランケンシュタイン・コンプレックスと呼ばれるようになります。

 水を流す魔法を覚えて、水を止める魔法を覚えなかったために、ひとたび流れ始めた水を止めることができず、自分が創造した水に溺れかけた魔法使いの弟子のように、ヴィクターは自分が作りだした生き物に襲われるようになると思い込みました。人間が自分の才能に溺れて、自分の力を超えたものを創造してしまい、それから逆襲され、狙われ、苦しめられる生涯を後悔しながら送るようになる、これがフランケンシュタイン・コンプレックスです。

サタン・コンプレックス

 この物語は、ヴィクターの側に焦点を合わせるならば、フランケンシュタイン・コンプレックスを描いたものだと言えるでしょう。しかし創造された怪物の側に焦点を合わせるならば、これはサタン・コンプレックスとでも呼べる物語と言えるでしょう。サタンは最初は天使として創造され、神から愛されたのですが、自己への愛を捨て切ることができず、その傲慢さから神を凌駕することを望むようになり、地獄に落とされたのでした。

 この怪物が拾い読みした物語によりますと、サタンは「傲慢に禍されて、反逆の軍勢と共に天を追われていた。これらの天使の援助をえて、儕輩を尻目に、自らを栄光の地位におき、あわよくば、一戦を交えて至高者と対等たらんことを窺った」[1]のでした。この思い上がった堕天使を待ち受けていたのは、地獄で「呻吟する運命」[2]でした。

 それでもサタンはみずからの選択で創造主への反逆をたくらみ、それに失敗しただけ、この怪物よりはましだと言えましょう。少なくとも本人には納得できた運命だったはずです。しかしこの怪物は人間の身体と意識を与えられて創造され、他者を愛することを熱望し、他者から愛されることを熱望しながら、その醜さのために愛を拒まれるという運命を味わうことになったのです。

[1]ミルトン『失楽園』。平井正穂訳、岩波文庫、上巻、9ページ。

[2]同。

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「フランケンシュタイン・コンプレックス」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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