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怪物コンプレックス

アンドロイド/サイボーグ考(54)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(18)

2014年7月1日(火)

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怪物コンプレックスの条件

 さてこれまで『フランケンシュタイン』の物語を読みながら、創造主であるフランケンシュタインがフランケンシュタイン・コンプレックスにかかってみずから創造したものを呪うようになり、それに伴って、創造された生き物もまた怪物となった経緯をたどってきました。今回は一休みとして、この怪物の孤独と恨みのうちから生まれた怪物コンプレックスについて考えてみたいと思います。

 この生き物は、フランケンシュタインによって生命を与えられました。身体の素材は借り物ではあっても、それまでに生命のない、あるいは生命を失っていた物体に、新たな生命を与えられたのでした。この生き物には新たな意識が生まれ、新たな知識と記憶が蓄えられました。その意味ではまったく無垢で、無辜の存在だったのです。ところがこの生き物は、新たな経験を積むうちに、人々の迫害にあいます。それも自分には何の罪の意識もないのに、ただ醜いもの、怪物のようなものとして忌み嫌われ、憎まれるのでした。

 こうしてその生き物は自分を「怪物」として認識することになりました。そして人間の世界で経験を積むうちに、自分は人々にとって憎むべき怪物であるという意識を強めることになります。その背景には二つの事情がありました。第一は、その生き物が人間にとって異質なもの、嫌悪されるものであるという「しるし」をもっていたことです。

 フランケンシュタインは、この生き物を創造するときに、皮膚も容貌も美しいものを選んだと語っていました。しかし創造した瞬間から、それを怪物として憎むようになったのでした。カインは弟のアベルを殺したことで、神から追放されましたが、迫害されないようにカインの「しるし」をつけられました。このしるしは迫害を避けるためのものでしたが、この生き物には誕生の瞬間から、醜いもの、怪物的なものという迫害を招く「しるし」がつけられていたのです。

 というよりも、この生き物は自分にそのようなしるしがあると考えたのでした。アンデルセンの童話「醜いアヒルの子」を思い出してみましょう。アヒルの母親があるとき孵した卵のうちに、最後まで孵るのが遅れた子供がいました。この子供は他の子供たちとはまったく違ってみえました。そのため「醜い」子供として、兄弟たちから嫌われたのでした。しかし実はこの子供はアヒルではなく、白鳥の子供だったのです。「醜さ」とはたんに、その他の同胞との種の違いによる外見の違いにすぎなかったのでした。

 この怪物がどのような「醜さ」をそなえていたかは、物語では語られていません。ただ人間と違うものであること、潜んでいた隠れ家からのぞいた隣の家の人々と比較すると、自分の異様さに本人がぞっとしたことが記述されているだけです。それでもこの生き物は人々のあざけりと嫌悪の表情のために、自分を「怪物」と思い込んだのでした。

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「怪物コンプレックス」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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