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フランケンシュタインの違約

アンドロイド/サイボーグ考(55)~メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を読む(19)

2014年7月8日(火)

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 このようにしてこの生き物は怪物コンプレックスに悩まされ、それから解放されるために、世界の果てに、人間たちから逃れて住むことを決意するのですが、それにはどうしても必要な条件が一つありました。それは世界の果てで生きるのはよいとしても、それがもたらす孤独から逃れられること、すなわち異性の伴侶が存在することでした。そのためにフランケンシュタインに執拗に、伴侶を作ってほしいと頼んでいたのでした。そしてフランケンシュタインはこの怪物の要求を吟味し、それをうけいれることを決めたのです。

*  *  *  *  *

フランケンシュタインの約束

 わたしはしばらく、相手の語ることのすべてを、彼が提起したさまざまな論拠を吟味してみました。彼が生まれた後には、美徳のかけらのようなものが存在していた様子があると考えました。しかしその後に、彼が自分の庇護者たちと思い込んだ人々から示された嫌悪感と軽蔑のまなざしのために、あらゆる善き心情が破壊されてしまったのだと考えました。

 もちろん彼がもっている巨大な力と、それがもたらす脅威の大きさを吟味することも、忘れませんでした。この怪物は氷河の洞窟の中に隠れて住み、人々の追跡を逃れて険しい絶壁に囲まれた山々の奥に逃げ込むことができるのです。こうした力をもつ生き物と争うのは無益なことでしょう。わたしは長いあいだ沈思黙考した後に、この生き物の要求に応じてやるのが、この生き物にとっても、人間たちにとっても正義に適うことであると結論しました。そこで相手に向き直って、こう言ったのです。

 「それではお前の要求を聞き入れることにしよう。ただしお前に女性の伴侶を作ってやったならば、その女性とともにただちに、そして永久にヨーロッパから出てゆくことを、そして人間が住むほかのどんな土地にも近づかないことを、おごそかに誓うならばだが」

 相手は叫びました。「誓うとも、この太陽にかけて、天の青空にかけて誓う。わたしに伴侶を与えてくれるならば、いかなることが起きようとも、お前がわたしをふたたび目にすることはないだろう。さあ、家に戻って、わたしの伴侶を作る仕事を始めてくれ、わたしはずっとお前の仕事ぶりを見張っているからな。心配でならないのだ。仕事が完成したら、わたしからお前を尋ねてゆくからな」。

 彼はそう言い終わるとすぐに、わたしの前から姿を消しました。おそらくわたしの気が変わるのを恐れたのでしょう。鷲が空を飛ぶよりも素早く、彼は山を下ってゆきました。そしてたちまちのうちに、海の氷の山の背後にその姿がみえなくなりました。

 彼が語った長い身の上話を聞いているうちに午後のほとんどすべての時間が過ぎていました。もう太陽は西の地平にかかっていました。急いで谷まで降りなければ、すぐに暗くなってしまいます。それでも気が進まず、わたしの足取りは重いものでした。

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「フランケンシュタインの違約」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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