• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

サイボーグ幻想

アンドロイド/サイボーグ考(57)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(1)

2014年7月22日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

アンドロイドの夢

 これまでピュグマリオンの物語に始まって、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』にいたるまで、人間が人間でないものから人間を創造するという夢のあとを追ってきました。ピュグマリオンは石造の乙女の像が、熱い肌をもつ人間の乙女として生まれることを神に願い、それを認められたのでした。フランケンシュタインは、科学的な技術によって生命を失った人間の器官を集めて、それに生命を吹き込むことを目指し、それに成功したのでした。

 ピュグマリオンは自分が彫刻した石造の乙女とその後一生のあいだ、仲良く暮らしたようで、子供にも恵まれました。しかしフランケンシュタインは生命を創造した直後から、フランケンシュタイン・コンプレックスに悩まされ、自分の創造を後悔し、自分が創造したものを怪物と呼び、その怪物から子供が生まれるという悪夢を恐れて逃走しました。ピュグマリオン幻想は、フランケンシュタイン幻想に変わり、人間でないものから人間を創造するというアンドロイドの夢は、悪夢に変わったのです。

サイボーク幻想

 このアンドロイドの夢は、人間でないものから人間を創造するという夢でしたが、これと対照的なのが、サイボークの夢です。サイボークとは、サイバネティック・オーガニズムの略語であり、人間のさまざまな器官を改造して、人間の力を増大させたもののことです。アンドロイドが人間でないものを人間に変えようとするのにたいして、サイボークは人間そのものを素材として、これを人間を超えたものに、超人に変えることで、人間の能力をさらに強化することを目指すものです。

 ごく単純なものでは、治療の目的からではなく能力の強化の目的で、人間の臓器を入れ替えようとするならば、それはサイボーク幻想の表現だと言えるでしょう。近視や遠視の人は、眼鏡をかけることである程度は視力を補正できます。この眼鏡は、遠くを見るための望遠鏡や小さくて肉眼ではよく見えないものを見るための顕微鏡と同じように、人間の視力という特定の能力を補正し、強化するための道具の一種です。こうした道具は必要に応じて使う技術的な手段にすぎません。

 しかし人間が自分の眼の代わりに、特別な視力をもった装置を眼窩に埋め込んで、その装置を自分の神経細胞と結びつけた場合はどうなるでしょうか。その場合にはその装置は取り外すことの可能なたんなる道具ではなく、超人間的な機能をそなえた生理的な補助器官となるでしょう。これは人間が自分の能力を強化することを目指したサイボーク幻想が生み出しものと考えることができるでしょう。

 現在でも心臓に重要な欠陥がある場合には、他人の心臓を移植することで、その欠陥を治療することは可能です。しかし移植した心臓はやはり人間の心臓であり、それに固有の脆さをそなえています。ある期間だけ働くと、もはや動くことを拒むでしょう。そしてその心臓は、まだ生命を失ったばかりの他人の身体から移植する必要があるのです。

「ウェブ読書会」のバックナンバー

一覧

「サイボーグ幻想」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

店長や売り場主任などの管理職は、パートを含む社員の声を吸い上げて戦略を立てることが重要だ。

川野 幸夫 ヤオコー会長