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胎児の調整と訓練

アンドロイド/サイボーグ考(59)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(3)

2014年8月5日(火)

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 さて、このようにして卵子を分裂させて、多数の芽を発芽させ、そこから多数の胎児が生まれるわけです。しかもフォーディズムの流れ作業にふさわしいように、同じ卵子から生まれた一卵生の双生児たちが、いわば受精卵の操作によるクローン的な人間として大量生産されるわけです。

 この「科学的な」人間生産プロセスの次の段階で重要なのは、このように大量に培養された人間たちを胎児の状態で調整し、訓練することです。こうした調整の重要な課題は、生殖する能力のない女性を作りだすことでした。理想的な卵子が一つあれば、ほんらいは足りるからです。さらに胎児の成熟プロセスを早める工夫も行われています。馬のように数年で成熟すれば、すぐに働かせることができます。人間が成熟する過程で経験する長い未成熟の期間である青春とは、労働する人間のためには不必要なものなのです。こうした工夫を調べてみましょう。

*   *   *

胎児の栄養補給

 [案内係のフォスター君は]腹膜のベッドの上で育っていく胎児について語った。見学者たちに、胎児の栄養となる代理血液をなめさせてもみた。胎児を、胎盤の分泌物や甲状腺ホルモンで刺激する必要がある理由を説明した。さらに卵巣黄体のエキスについても説明した。そのエキスは胎児に自動的に噴射されるのであり、その噴射口は[胎児の入った瓶が移動する]〇メートルの高さから二〇四〇メートルの高さまで、一二メートルごとに配置されている。

 さらに最後の九六メートルの工程では、脳下垂体の分泌物が胎児に次第に分量を増やしながら与えられることを説明した。胎児を収容した瓶には、一一二メートルごとに人工の母胎血液が注入されるのである。さらに代理血液の貯蔵装置や、その血液を胎盤の上に絶えず流れさせて、人工の肺や老廃物の濾過装置を通過させるために利用する遠心ポンプも見学させた。また、胎児は貧血気味になる面倒な傾向があるために、豚の胃のエキスや馬の胎児の肝臓を多量に補給する必要があることも説明した。

生まず女の生産

 さらに八メートル移動するたびに、その最後の二メートルの区間で胎児の入った瓶を揺すってやり、運動に慣れさせる単純な装置も見学させた。そしていわゆる「瓶の中の衝撃」の重要性を説明した。瓶に入った胎児たちに適切な訓練を与えることで、この危険な衝撃を最小限にするために必要な注意事項を説明した。そして工程が二〇〇メートルほど進んだところで性別検査が行われることを説明した。性別ごとにレッテルをつけるのである。白地に黒で、男性にはTの印、女性には○の印、生まず女には?の印をつける。

 フォスター君は説明した。「生まず女が必要なのは、多産性は非常に多くの場合、面倒な問題を生み出すからです。妊娠能力のある卵巣は、一二〇〇個のうちの一つで十分なのです。しかしわたしたちは贅沢な選択をすることも望んでいるのです。さらに安全を考慮して、十分な余裕を見込む必要もあります。そこでわたしたちは女性の胎児の二割だけを、正常に発育させることにしています。

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「胎児の調整と訓練」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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