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幼児の調整と訓練

アンドロイド/サイボーグ考(60)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(4)

2014年8月12日(火)

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 この瓶詰めの胎児の成育プロセスでは、将来の労働環境に合わせた条件づけが行われます。たとえば熱帯で労働するための胎児たちは、瓶で運ばれている間に、暑さと寒さを経験させられます。そして寒さには極端に不快な経験が結びつけられているために、寒さを本能的に恐れ、こわがるように条件づけられるのです。こうして、暑い場所で働くことを好むような人間が誕生してくるのです。

 さらにこうした胎児たちには、まだ個体発生が種の系統発生の歴史を反復している段階から、熱帯で発生する疾病にそなえて予防接種が行われるのです。こうした条件づけと準備をされた胎児は、成人してからは熱帯で働くのに適した肉体をそなえていることになるでしょう。こうした調整のすべては、労働の生産性を第一とするものであることは明らかでしょう。

*   *   *

熱帯仕様の胎児の条件づけ

 彼らはこうした真紅の暗闇の中を歩き回ったあげく、胎児を収容したボトル・ラック第九号の一七〇メートルの地点にやってきた。ここから先はボトル・ラック第九号はトンネルの中に入り、胎児のボトルは残りの行程をこのトンネルの中で過ごすことになる。トンネルにはところどころ、二、三メートルの幅の窓のようなものが開けられている。

 「熱による条件づけです」とフォスター君は説明した。

 これからは高温のトンネルと低温のトンネルが交互に配置されている。低温のトンネルでは強いX線によって、不快な刺激が胎児たちに与えられる。そのために胎児がボトルから生まれてくる頃には、寒さを恐れるようになっている。この胎児は熱帯に移住させて、鉱夫、人絹製造工、鉄鋼製造工などとして働かせる予定なのである。そしてその後に、精神を教育して、肉体の判断をみずから肯定するように育てるのである。

 フォスター君は、「わたしたちは彼らが暑いところで元気になるように、肉体を条件づけるわけです。そして上の階にいるわたしたちの同僚は、彼らが精神的に暑さを愛することを教えるのです」と説明した。所長はもったいぶってつけ加えた。「これこそが、まさしく幸福と美徳の鍵なのだ。自分がしなければならないことを愛するようになること。条件づけはすべてこのことを目指しているのだ。人々は自分の避けがたい社会的な運命を、愛するようになるのである」。

 暑いトンネルと寒いトンネルの間のところで、看護婦が目の前を通過するボトルのゼラチン状の内容物に、細い注射器で何かを巧みに注射していた。研修生と引率の二人は、しばらく黙って看護婦の作業を見守っていた。

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「幼児の調整と訓練」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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