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幼児の睡眠教育法

アンドロイド/サイボーグ考(61)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(5)

2014年8月19日(火)

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条件反射による調教の目的

 このようにして赤ん坊に条件反射を反復して、書物や美的なものにたいする嫌悪感を植えつける作業の実習が終わったわけです。胎児の段階での受精卵の分割と調整、幼児の段階での条件反射による調教、成人の段階での薬物による疑似満足感の付与というこの「すばらしい新世界」の重要なステップの一つは、このようにして行われるのです。

 この新世界ではすべてのことが、人類の有効利用という最終目的のために計算され尽くされています。仕事というものはつらいものです。それを否定することは誰にもできません。そうであれば、最初からそのつらい仕事に適した人間を作っておけば、そのつらさも最小限になるでしょう。暑い南できびしい労働に従事する人間に、書物や芸術作品は不要だし、仕事の苦しさを高めるだけのものにすぎないでしょう。こうした調教は、国家のためだけではなく、その本人のためにもなるのだと、この国家は考えるのです。

*   *   *

自然嫌いの経済的な根拠

 研修生の一人が挙手して質問した。下層階級の人々に本を読ませるのは、国家の時間を浪費することになることは十分に理解できることである。それに本を読んで、せっかく条件反射で身につけた習性が失われるというリスクがあるのもたしかである。 しかし花を嫌わせるのはどうしてなのか、よく理解できないというのだった。デルタ階級の人々が心理的に花を嫌うようにする手間をかけるのはどうしてだろうか。

 所長は根気よく説明する。子供たちが薔薇の花を見ると悲鳴をあげるように調教するのは、経済的な高度の政策的な理由によるものなのだ。しばらく前までは(一世紀くらい前のごく最近までは)、ガンマ階級、デルタ階級、そしてエプシロン階級の子供たちも、自然を愛するように、とくに花を愛するように訓練していたものだった。そのように訓練しておけば、これらの階級の子供たちは、暇さえあれば田舎に出かけるようになるだろう。そしてそのために交通機関を利用するようになるだろう。

 「それなのに彼らは交通機関を使わなかったのですか」と研修生は質問する。所長は「頻繁に利用したさ。ただそれでおしまいだった」と説明した。

 どういうことかというと、田舎の風景や草地に生えるサクラソウのようなものには大きな欠点があるということだ。それは無料で手にはいるのである。人々が自然を愛好しても、工場の生産は少しも増加しないのだ。そこで少なくとも下層階級の人々が自然を愛好するように訓練することは廃止されたのである。ただし自然を愛好するように訓練はしないものの、田舎に出かけるために交通機関を使用する傾向はそのまま維持されることになった。そこで彼らが自然を嫌悪するようになったとしても、田舎に出かけるようにすることが重要になった。そのためには、彼らが田舎の風景やサクラソウを嫌悪するようになっても、なお交通機関を利用しつづけるようにする理由を作りだす必要がある。そしてその理由は作りだされたのである。

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「幼児の睡眠教育法」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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