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睡眠教育に基づいた成人教育

アンドロイド/サイボーグ考(62)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(6)

2014年8月26日(火)

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 このようにして、この時代には母親や両親という言葉は、きわめて猥褻な言葉でした。母親が胎内で子供を育てて生むということなどは、女性を蔑視し、酷使するものであり、しかも猥褻なことだとみなされていました。所長の代わりに総統が登場して、研修生たちに問い掛けます。家庭というのはどのような場所でありうるだろかと。それは不衛生な兎小屋ではないだろうかと。すでに幼児の頃から睡眠教育で教え込まれてきたことを、成人になる段階で、改めて理論的に確認させるのが、その目的です。

*   *   *

家庭という兎小屋

 家庭、家庭。ごくわずかな数の小さな部屋で構成され、そこに一人の男が、周期的に子供を孕む女性とともに暮らしている。そしてこの家庭には、さまざまな年齢層の子供たちが一緒に、息もつまりそうな狭い場所に暮らしている。呼吸する余裕もないほどだ。牢獄のような部屋はきちんと消毒されておらず、暗闇と病気と悪臭に満ちている。……

 家庭という場所は物質的に貧しい場所であるだけではなく、心理的にも狭苦しいところだった。心理的には家庭とは兎の穴のような、ごみためのような場所だった。人々が密集して暮らしているために激しい摩擦で暑苦しくなり、人々の感情のために嫌な悪臭を放っている。家族たちを支配しているのは、なんとも息詰まるような親密さであり、なんとも危険で異常で淫猥な人間関係だった。

 そして母親は狂ったように、子供たちを、しかも自分の子供たちを可愛がり、育てるのだった。まるで雌猫が子猫を育てるようなものだ。しかもこの母親猫は、言葉を話せるのである。「わたしの赤ちゃん、わたしの赤ちゃん」と、繰り返し言うのである。「わたしの赤ちゃん。わたしの乳房をつかむ小さな可愛いこのお手て! すっかりおなかが空いたときのあの様子! ああ口にすることもできないほどに胸苦しいわたしのこの喜び! わたしの赤ちゃんはもう眠るわ。口の周りに母乳の白い泡をつけたままで、わたしの赤ちゃんがもう眠るわ!」

 「君たちがぞっとするのも、無理はない」と総統は語った。

*   *   *

万人のための愛

 このように家庭での育児が猥褻なものとして否定される一方で、若い人々の間ではセックスというものにたいするタブーは消滅させられています。

 というのも、性的な感情に支えられた恋愛とか、ロマンスとかいうものは、愛する相手を一人に限定して、家庭を作りだす原因として、否定されねばならないからです。「万人は万人のものである」。性的な営みはただ一人の相手だけに限定してしならない。これがこの理想国家のモットーです。

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「睡眠教育に基づいた成人教育」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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