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国民教育システムとソーマ

アンドロイド/サイボーグ考(63)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(7)

2014年9月2日(火)

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国民教育システム

 これまで、受精卵の操作、胎児の調整、赤ん坊の教育と訓練、生涯にわたる睡眠教育といった一貫性のある国民訓練システムを簡単に調べてきました。この国家のシステムはきわめて巧みに考案され、国家の望む国民が育てられるようになっていることには感心します。生まれたときからすでに知能や個人的な好みに違いがつけられ、それぞれの階級ごとに、その生涯にわたって、教育から労働にいたるまでの格差がつけられています。

 そして睡眠教育によってこの格差を受け入れるように訓練されます。下の階級の人間は徹底的に軽蔑するように訓練され、その人の優越感をくすぐるのです。上の階級の人間は尊敬するように教えこまれながらも、自分が上の階級の人間ほど期待されず、厳しい教育をうけないですむことに安堵するのです。

新しい阿片

 もちろんそれだけで人生の苦しみがなくなるわけではありません。人々は国家の期待する人間像にしたがって、辛い労働をして、国家のために尽くすことを求められるのです。しかし国家はそれに報いる準備をしています。そのために国民には、宗教にかわる薬物を与えています。若きマルクスは宗教は民衆の阿片であると喝破しました。民衆は生活の苦しさに耐えるために彼岸での救済という宗教の教えを必要としたのです。

 しかしこの新しい国家では、キリスト教を必要としていません。キリスト教という宗教は、信者たちのために「天国と呼ばれるものを用意していました。しかしそれでも人々は多量の酒を飲んでいた」のですし、「人々はモルヒネやコカインを用いていた」のでした。かつてのキリスト教の国家では宗教そのものが阿片であるにもかかわらず、それの効き目が不十分であるために多量の酒と麻薬を必要としていたのです。

 そこでこの新しい理想的な国家では、「キリスト教と酒のあらゆる長所を含んでいて、その短所は一切含まない」薬品、ソーマを開発しました。人々はこの薬品を摂取することで「いつでも好きなときに休暇をとって現実から逃げ出せるし、しかも頭痛や神話のお土産なしに、戻ってくることができる」のです。

 この理想的な国家では、陰鬱な顔をしているということそのものが、ある異常性を示すものです。生活がつらければ、休暇をとって、ソーマを服用すればよいのです。陰気な顔をしていると友人から声をかけられます。「おい、君はほんとうに陰気くさい顔をしているよ。君に必要なのは一グラムのソーマだ」。その友人はポケットから薬瓶を取り出します。「一立方センチメートルのソーマは、一〇の憂鬱症をいやす」のです。そしてソーマを飲むことを拒む人は、異常者であり反逆者であるとみなされかねないのです。

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「国民教育システムとソーマ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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