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戦争論に関する簡明かつ最高の入門書

B・H・リデル=ハート、「孫子」を語る

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2014年9月22日(月)

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グリフィス版孫子 戦争の技術』(漆嶋稔訳、日経BPクラシックス)

 20世紀を代表する軍事戦略家ベイジル・ヘンリー・リデル=ハートは、その間接アプローチ戦略を含め、いまなお世界の軍事関係者に大きな影響を与え続けている。
 リデル=ハートは、元米海兵隊准将のサミュエル・B・グリフィスが解説・翻訳を手がけた『SUN TZU The Art of War』(1963年刊行、オックスフォード大学出版)に序文を寄せ、孫子論を展開している。
 今回、英米で最も普及している孫子本であるグリフィスの著書が『グリフィス版孫子 戦争の技術』(漆嶋稔訳、日経BPクラシックス)として翻訳出版されたのを機に、リデル=ハートの孫子論の全文を掲載する。

 『孫子』は最も古い戦争論として知られていて、その総合的な見方や理解の深さでこれを凌駕する著作は今日に至るまで現れていない。『孫子』が戦争指揮に関する智恵の真髄を凝縮した内容であることを考えると、「The Art of War」(『戦争の技術』)という書名は秀逸だ。過去の軍事思想家を振り返ってみて、孫子と同列に論じることができるのはクラウゼヴィッツだけだ。

 孫子より二千年以上も後に戦争論を書いているのだが、それでも孫子より「時代遅れ」であり、ともすれば骨董品のような印象を受ける。言い換えると、孫子の方が鮮明な展望を持ち、深遠な洞察力を備えており、発想の新鮮さは少しも失われることがない。

 第1次世界大戦以前の欧州軍事思想の原型となったクラウゼヴィッツの金字塔的著作である『戦争論』(「On War」)の影響が、『孫子』で展開される知見と絡み合ってうまくバランスが取れていたなら、今世紀の二度にわたる世界大戦による被害は相当小さくてすんだかもしれない。孫子が説く現実主義と中庸の精神は、クラウゼヴィッツが強調しがちな合理的な理想や「絶対的戦争」とは好対照だ。

クラウゼヴィッツの軌道修正を軽視した信奉者

 クラウゼヴィッツの信奉者は、この「絶対的戦争」では究極的な「総力戦」の理論や実践が展開されるものと理解した。この破滅的な考え方は「戦争哲学のなかに中庸の原理を持ちこむのは愚かなことだ――戦争とは暴力の極限的表現なのだから」というクラウゼヴィッツの断定によってさらに助長された。

 もっとも、後にクラウゼヴィッツは「戦争の当初の動機である政治目的は、軍事目的と軍事力の投入量を決定する基準とすべきである」とも認めており、前述の断定を軌道修正している。さらに、合理性を究極まで突き詰めていくと、「手段は目的との関係を一切失うことになる」という結論にも達していた。

 信奉者がこのようなクラウゼヴィッツの軌道修正を軽視し、あまりに浅はかで極端すぎる解釈をしていたのは、クラウゼヴィッツの教えの負の側面といえる。だが、彼自身は信奉者の解釈が間違っていると認めていた。彼の理論はある意味で抽象的過ぎるために、現実的に考える軍人には自分の主張についていけなくなる恐れがあると考えていたのである。

 その証拠に、理論的にある方向に行くように見えても、実はそこから引き返すことも少なくなかったからだ。一方、心酔して思考停止に陥った信奉者は、クラウゼヴィッツの生き生きとした魅力的な言葉に目を奪われ、実際には孫子の結論とそれほど違わないクラウゼヴィッツの根本思想に気がつくことはなかった。

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