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野蛮人地域を訪れて

アンドロイド/サイボーグ考(66)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(10)

2014年9月23日(火)

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初めての体験

 さて、二人はこうして初めて野蛮人地区を訪問しました。レーニナにとっては、驚きと嫌悪の連続です。理想国家ではまったく考えられない事態が続出するのです。しばらくその様子を見守ってみましょう。二人はガイドに導かれて、地区の内部に入りこみます。レーニナがふと、後ろから足音がするのに気付いてみると、上半身ははだかで、からだに絵の具をぬったインディアンのような男たちが歩いてきます。一人は手に数本の縄のようなものをもっています。ところがその縄は動くのです。それは蛇であることにレーニナは気付きました。

*   *   *

不潔さと文明について

 「嫌だわ」とレーニナは言った。「ほんとに嫌だわ」。

 ガイドは何か指示を受けるために姿を消していたので、二人は集落の入り口で待っていなければならなかった。そこでレーニナを待ち受けていたものは、さらに嫌な感じを与えた。まず何よりも汚物の塊があった。ゴミが山積みになっていたし、埃が溜まり、犬がうろつき、蠅がぶんぶんと飛び回っていた。彼女は嫌悪感から顔をしかめ、ハンカチで鼻を覆った。

 「ここの人たちはどうやってこんな風で生きていられるのかしら」。レーニナは自分の見ているものに堪え難くなって、急に憤慨するような口調で話し始めた。こんなことって、ありえないことよね。

 バーナードは〈仕方ないだろ〉とでも言うように、肩をすくめた。「ここの人たちはもう五千年から六千年もこうして暮らしてきているんだ。きっと今ではこれにすっかり慣れているのさ」。

 「清潔さは、神聖さに近いものなのよ」とレーニナは言い張った。

 「そうとも、〈文明とは消毒することです〉」とバーナードは衛生学の睡眠教育の第二課の教えを皮肉な口調で引用した。「それでもここに暮らしている人々は、ぼくたちのフォードさまの教えはまったく知らないのだし、文明化されてもいないのだから、こうした教えは彼らには何の意味もないのさ」。

高齢者の存在

 「あら、みて」。レーニナはバーナードの腕を掴んで叫んだ。

 ほとんど丸裸のインディアンが、すぐ側の家の二階のテラスから、梯子を伝ってゆっくりと地面に降りてきていた。非常に高齢の老人で、梯子を一段ずつ、ぶるぶると震えながらゆっくりと降りてきたのだった。

 彼の顔は黒曜石で作ったのかように真っ黒で、とても深い皺が刻まれていた。歯はすっかりと抜け落ちていて、口はすぼんていた。唇の両端と顎には長い髭を生やしていた。白髪の髭が黒い皮膚と対照的で、真っ白に光っていた。束ねてない長い毛髪が、灰色の房のよう顔を包んでいた。腰はすっかりと折れ曲がっていた。骨もみえるほどにやせ衰えていて、肉がほとんどついていないようだった。彼は梯子をゆっくりと下りてきた。一段ごとにやすんで、次の下の段に、足をそっと下ろすのだった。

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「野蛮人地域を訪れて」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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