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見知らぬ若者との出会い

アンドロイド/サイボーグ考(67)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(11)

2014年9月30日(火)

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 レーニナとバーナードが目撃したのは祭りの広場で少年を鞭打つ儀礼でした。これはある種の若者の通過儀礼と共同体の豊年祈願を兼ねた祝祭だったようです。しかしレーニナにはそのようなことは分かりません。ただ苦痛なだけで、レーニナはすすり泣き始めます。そこに不思議な若者が登場します。

*   *   *

レーニナの衝撃

 レーニナはまだすすり泣きつづけていた。「ひどすぎるわ」とレーニナは言いつづけていた。バーナードがいくら慰めてもだめだった。「ひどすぎるわ、あんなに血を流して」。レーニナは身震いした。「ああ、ソーマをもってくればよかった」

 部屋の中で足音が聞こえた。レーニナは離れたところに座って、身動きもせず、顔を両手に埋めていた。何も見ていなかった。バーナードだけが振り返った。

見知らぬ若者の憤慨

 そのとき部屋からテラスに出てきた若者は、衣服でみるかぎりインディアンだった。ただ編んだ頭髪は半ば金髪で、目は青く、皮膚は白人のような白さだった。ただし顔は真っ赤に日焼けしていた。

 その見知らぬ若者は「やあ、よき朝ですね」と言った。普通の英語の語彙を使ってはいたが、奇妙な話し方だった。「あなたがたは文明世界から来たのですね。保存地区の外の世界から来たのですね」

 「いったいあなたは……」とバーナードが驚いて尋ねた。
 若者は溜め息をついてから、首を振って言った。「世界でもっとも不幸な紳士です」。そして広場の中央の血の塊を指差しながら「あのひどい場所が見えますか」と尋ねた。その声は感動で震えていた。

 「一グラムあれば、悪態をつかなくてすむ。そのとおりだわ」。レーニナは顔を両手で覆ったまま、覚えている格言をそのまま繰り返した。「ああ、ソーマさえあれば」。

 若者は言葉をつづけた。「あの場所にはぼくがいるべきだったのだ。どうしてぼくを犠牲に捧げなかったのだろう。ぼくなら一〇回でも、一二回でも、一四回でも耐えられたのに、パロフティワはたった七回しかもたなかった。ぼくを犠牲にしてくれれば、血の量は二倍になったはずなのに。〈はてしなき大海原を真紅に染める〉こともできただろうに」。彼は大袈裟な身振りで両手を広げた。「しかしぼくはやらせてもらえなかった。顔の色のために、ぼくは嫌われているのだ。いつもそうなのだ。いつでもだ」。若者の目に涙があふれた。彼は恥ずかしそうに顔を背けた。

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「見知らぬ若者との出会い」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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