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リンダの訴え

アンドロイド/サイボーグ考(68)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(12)

2014年10月7日(火)

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リンダの不幸

 母親のリンダの訴えがつづきます。この物語では、「文明人」として野蛮人地区に残されたユニークな存在として、リンダは「文明人」の生き方のもつある種の空しさを示すために描かれているのです。リンダは、この土地の自給自足方式に慣れることができず、着物を繕うことなどは、気の狂った人のする行為だと思っているのです。

 それに彼女は、「万人は万人のために」という「文明」のスローガンを、この土地で実行してしまいます。そして訪れる男たちを拒まずに、自分のベッドに迎えいれるのです。それがどういう結果を生むかは、すぐに想像できることです。「野蛮人」たちの男たちは彼女に群がり、その妻たちから激しく憎まれることになるのです。

*      *      *

文明とは消毒なり

 リンダは文明の地に生きていた頃の昔を思い出しながら溜め息をつき、それから一度か二度、鼻をならしてから、急に手で洟をかんだと思うと、スカートでその手を拭いたのだった。レーニナは気分が悪くなって、知らずに顔をゆがめてしまった。すると謝りながらいうのだった。「あら、こんなこと、してはいけないわね。ごめんなさい。でもハンカチなんてものが、ここにはないのよ。そうしたら、いったいどうすればいいというの?」

 「わたしがここに初めて連れてこられたとき、どれほどここの生活に耐えられなかったか、自分でも忘れられないわ。どこも泥だらけで、消毒なんて考えてもいないのよ。頭に大けがをしていたのに、彼らが傷に何をつけてくれたか、あなたにはきっと想像もできないわよ。何かわけの分からない汚いものを塗りたくっただけだったのよ」

 「わたしはあいつらにいつも『文明とは消毒なり』という格言を言って聞かせたわよ。子供にでも言ってやるように、清潔な浴室とトイレの歌を歌って聞かせてやったわ。もちろんあいつらには何のことかも分かりはしなかったけどね。まあ、分かるわけもないわよね。ところが最後には、わたしのほうがこうしたことに慣れてしまったの。蛇口をひねったら熱湯が出てこないのに、何でも清潔にしておくことなんて、そもそもできるわけがないのよね」

着物を繕うという恥辱

 「ねえ見て、わたしのこの服。いやらしい獣の毛でできているのよ。あなたの人絹とは比べものにならないわ。おまけにこれがいつまでも長持ちするのよ。そして破れたら、繕えと言うのよ。わたしはベータ階級の人間なのよ。わたしは向こうでは受精室で働いていたわ。わたしに服の繕い方を教えてくれる人なんて誰もいなかったのよ。それにわたしの仕事は、服を繕うことでなかったわ」

 「それに服を繕うなんて、正しい教えに反することよ。服に穴が開いたら、捨ててしまって、新しい服を買うのが正しいことなのよ。『繕えば繕うほど、富は少なくなる』だったわよね。そうでしょ? 繕いものなんて、反社会的な人のすることだわ。ところがここではまったく違うのよ。気の狂った人々と暮らしているみたいなものだわ」

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「リンダの訴え」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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