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ジョンの葛藤

アンドロイド/サイボーグ考(69)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(13)

2014年10月14日(火)

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 このようにしてジョンは野蛮人地区で、文明人のリンダの息子として、そして同時にインディアンの一人の少年として育てられました。そのことが、ジョンに複雑な気持ちを抱かせます。文明のもつ力にあこがれながら、インディアンのまっとうな倫理的に生き方にもひきつけられるのです。

*      *      *

ジョンの文字の習得

 リンダはジョンに文字の読み方を教えた。彼女は炭になった薪の切れ端で、壁の上に絵を描いた。丸まっている猫の絵や、瓶の中にいる赤子の絵である。そしてその側に文字を書いたのだ。「猫はマットの上にいます」とか「赤ちゃんは瓶の中にいます」のように。ジョンはあっと言う間に文字を覚えた。

 ジョンが、壁に書かれたすべての文字を読めるようになると、リンダは自分の大きな木の箱を開いて、それまで着たことのない風変わりな赤いズボンの下に隠してある小さな本を取り出した。ジョンはその本はよく見せられていた。「お前がもっと大きくなったら、読めるようになるからね」と、リンダはよく言っていたものだった。

 そしてジョンはもう十分に大きくなったのである。ジョンは得意だった。「あまりおもしろい本じゃないかもね」とリンダは言った。「でもこれしかないんだよ」。彼女は溜め息混じりに言った。「ロンドンでよく利用していたすばらしい読書マシンを見たら驚くよ」。

 そしてジョンは読み始めた。『胎児の化学的および細菌学的な条件付けについて。ベータ階級の胎児室勤務者用マニュアル』。タイトルを読むだけでも一五分もかかってしまった。ジョンは本を床に投げ出した。「ひどい本だ、とてもひどい本だ」。そして彼は泣き出した。

ジョンの誇り

 少年たちはリンダについてのひどい歌を、いつまでもジョンに歌うのだった。ジョンが穴だらけの服を着ていることをからかったりもした。ジョンがうっかり上着にかぎ裂きを作っても、リンダはそれを繕う方法を知らなかったからだ。「向こう」の世界では、人々は服に穴が開いたら、それを捨てて、新しい服をもらうのだとリンダは説明した。「ぼろ服、ぼろ服」と子供たちはジョンを嘲笑した。

 ジョンは「それでもぼくは字が読める」と自分に言い聞かせた。「あいつらは字を読めない。字を読むということがどんなことかも知らないんだ」。子供たちにからかわれても、自分は字が読めることをじっと考えていれば、がまんできた。ジョンは一度は捨てたあの本を、もう一度くださいと、リンダに頼んだ。

 子供たちがジョンを指差して嘲笑しながら歌を歌うほど、ジョンは一心にその本を読んだ。すぐにすべての単語を読めるようになった。とても長い綴りの言葉もだ。ジョンはリンダに尋ねた。「この単語はどんな意味なの?」。リンダはしばしば答えられなかったし、答えられるときでも、ジョンにははっきりと理解できなかった。そのうちに聞いても答えてくれなくなった。

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「ジョンの葛藤」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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