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文明世界に戻ったリンダ

アンドロイド/サイボーグ考(71)~ハクスレー『すばらしい新世界』を読む(15)

2014年10月28日(火)

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 さて、このようにしてバーナードがリンダとジョンを理想国に連れ戻ったことによって、物語は終盤に入ります。これから二人の帰国によって、それぞれの登場人物に起きた出来事が物語られることになります。まずリンダはどうなったでしょうか。かつては理想国の住人だったリンダは、あこがれていた故郷に戻ったあとで、どのような暮らしを過ごすでしょうか。

 ジョンが人工孵化・条件反射育成所の所長の前に跪いて「父上」と呼び掛けたために、所長は面目を失って辞職する羽目になりました。そして半ば野蛮人でありながら、教養のあるジョンは、「母親から生まれた」という素性も、そのものの考え方や口にする言葉も風変わりだというので、有名人となって人々からひっぱりだこになります。しかしリンダに注目する人はいませんでした。リンダは落ちぶれた文明人にすぎなかったからです。

*      *      *

哀れなリンダ

 これにたいしてリンダはまったく人気がなかった。ある人が母親だったと語ることは、もはやジョークの域を越えていた。それは猥褻な言葉を口にすることだった。それにリンダは真の意味での野蛮人ではなく、ほかの誰もと同じように[赤ん坊の]瓶から生まれたのだし、条件反射で教育されていた。だから人々をびっくりさせるような奇妙な考えを口にすることもなかったのである。

 さらにリンダの外見もさえなかった。そしてこれが人々が、哀れなリンダに会いたがらない最大の理由だった。リンダはでっぷりと太っていて、すっかり若さを失っていた。歯はぼろぼろになっていたし、顔はしみだらけ。そして容姿ときたら(おお、フォードさま!)。彼女を見ると、気分が悪くなるのは避けられなかった。実際に誰でも胸が悪くなるのだった。だから上流階級の人々は、リンダには会わないと決めていた。

ソーマに溺れるリンダ

 それにリンダのほうでも、彼らに会いたいとはまったく考えてもいなかった。文明の地に戻るということは、リンダにとってはソーマのあるところに戻るということだった。ソーマさえあれば、ベッドに横になって、毎日が休暇のように楽しく過ごせるのだった。そしてその後で頭痛や吐き気に悩まされることもないし、ペヨトル酒を飲んだあとのように、何か恥ずべきこと、反社会的なことをしでかして、もはや他人の顔を見ることもできないというようなひどい気分になることもなかった。

 ソーマはこうした不愉快な副産物のないすばらしい薬だった。ソーマの与える休日は完璧なものだった。ソーマを飲んだ翌朝に不愉快な気分に襲われるとしたら、それはソーマそのもののせいではなかった。不愉快になるのは、目覚めた朝に、自分の今いる現実と、すばらしかった休日の楽しさを比較せずにはいられないからだった。この不愉快な副産物を味わわないですむ方法が一つだけあった。毎日ソーマを飲み続け、毎日休日にすればいいのである。

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「文明世界に戻ったリンダ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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